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「志貴って貴方の話ばかりするのよ。メイドや妹、旅してた時の事も話すけど、貴方の話が一番多いの」

 

「はぁ……えっと、それで?」

 

「私、志貴を高く評価してるんだけど、話を聞くうちに貴方に興味が湧いてきてね。

志貴に凄く影響を与えてるらしいから……こう、引き裂きたいくらいに?」

 

 

 ジャキっとさらに爪を伸ばして、こちらへ見せつけるアルクェイド。

 何この嫉妬。志貴の奴、もうフラグ立てたの?

 

 

「だから、何か面白い事やってみて?」

 

「……この恰好で、ですか?」

 

「貴方ならできるでしょ」

 

 

 手も足も縛られたまま、何か芸をやってみろと。

 志貴は一体どういう話を聞かせたのだろうか。変に過大評価されてる辺り、凄く気になる。

 

 

(歪曲の魔眼……ダメっぽいな。このお姫様にそんなもの見せたところで、絶対驚かない)

 

 

 弓塚は大変に驚愕してくれたが。

 うん、あれは嬉しかった。

 

 本当はこんな事やってる場合じゃない……のだが、それを口にする勇気はない。

 だって、アルクェイドは不機嫌な顔をしながらもこちらのアクションを待っている。自分を驚かせる事を信じて疑わない目でだ。

 

 

 頭を整理する。

……よし、決めた。

 

 

「そ、それじゃ一つ、未来予知を」

 

「へぇ、それは面白そうね」

 

 

 乗ってきた。と言っても、その表情は半信半疑だが。

 そりゃ、本物の未来予知なんてのは、生半可な魔術師では行えない。おそらくそれに特化した者か、超一流の魔術師にしか。

 

 

 俺は、そのどちらでもないけれど。

 

 

「―――真祖の姫、アルクェイド・ブリュンスタッドは、遠野志貴に恋をするだろう」

 

 

 

 

 ……言い切ったこちらに対して、アルクェイドは無言。

 あれ、外した? と思いったところで、反応が返ってきた。

 

 

「……恋って?」

 

「あれ、ご存知ない?」

 

「えぇ」

 

 

 アルクェイドには難しかったのか?

真祖の知識の基準はわからんが、雰囲気的に殺される方向は免れそうだ。

 

 

「良くある言い方だと、その人の事を頻繁に考えるようになって、一緒にいたいと思うようになる。

あと、心臓が高鳴る。ドキドキするってやつ」

 

「その相手が志貴なわけ?」

 

「そう。アルクェイド風に言うと、志貴と一緒にいて楽しい。もっと一緒に過ごしたい……って感じです」

 

「……恋か、うん、覚えておくわ」

 

 

 爪を振りおろし、縄を切り裂く。

 どうやら、アルクェイドは今ので満足したらしい。

 

 ……無駄なところで寿命が縮んだ気がするが、何とか乗り切ったことに、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「なかなか面白かったわ。志貴が影響を受けたのも少し納得ね」

 

 

 もう俺に用はないのだろう。アルクェイドは戦いの場へと駆けてゆく。

 

俺もぐずぐずしてはいられない。

志貴のフォローはアルクェイドが向かったのだから、俺はこの場から一秒でも早く撤退するのみ。

 

 

 

 

 アルクェイドが割った窓から跳躍して外へ出る。

 その後に遅れて、「志貴、撤退するわよ!」と大きな声が背中を押した。

 

 

 

 

 

憑依in月姫

第十九話

 

 

 

 

 

「さて、作戦会議を始めたいと思う」

 

「えっと、さっぱり状況が飲み込めないんだけど?」

 

「私はだいたい予想できましたが……アキさんから詳しい説明が欲しいですね」

 

 

 遠野の屋敷は先日の戦闘で全壊

 よって、それ以後は有間の家で寝泊まりしている。志貴は喜んでいたが、秋葉は何か気に入らないらしく、一人だけビジネスホテルに泊まると言い張った。

 

毎朝、琥珀が様子を見に行くから大丈夫だとは思うけど……何だろうな。

 

 

「まず、ついさっき起こった事を説明する」

 

 

 シエルから逃れることに成功した後、有間の家に向かいすぐに行動に移した。

 

 琥珀と弓塚とその他諸々の物資を担ぎ、翡翠と有間のおばさんに置き手紙。

そして隣町の目立たない旅館――目星は付けていたので探すのに時間はかからなかった――そこまで二人を連れて急いで来た。

 

 有間は遠野と繋がりがあるため、そこにいれば今夜にでも見つけられてしまうだろう。

 取りあえず、ここに潜伏していれば二日、三日は安心できる。

 

 

とお茶を飲みながら、ここまでの経緯を含めて、溜息交じりに二人に聞かせた。

 

 

「……と言う事があったわけだ」

 

「え、じゃあわたし達、その代行者さんって人に敵って思われてるの?」

 

「今の話を聞きますと、こちらが恨まれている要素は多いですね。難しい方のようですし」

 

 

 どこからかお茶菓子を取り出し、テーブルの上に出す琥珀。

 そう言えば俺お茶飲んでるけど、いつの間に淹れたんだろうな、これ。

 

 

「でも珍しいですね。アキさんが私にここまで話すなんて」

 

「うぅ……それはだな」

 

「わかってます。巻き込みたくないけど、今回の件は今までと違いアキさん一人じゃ解決できそうにない。だから話しているのでしょう」

 

「……言い訳しなくていいって便利、でもちょっと不気味」

 

 

 弓塚も取りあえず状況は掴めたらしい。

水羊羹を突きながら、こちらの会話に入ってくる。

 

 

「それでアキ君。わたしたちは具体的に何するの?

代行者さんに敵だと思われてるって事は、わたしたち狙われてるんだよね」

 

「狙われていると言っても、本命は別にいるからな。まず俺たちは三日ほど身を隠そうと思う」

 

 

 ペンを取り出し、白紙に図を描いていく。

 

 

「今、三咲町には力が五つある」

 

 

 事件の元凶である吸血鬼とその配下、志貴とアルクェイド、代行者のシエル、俺と弓塚、最後は秋葉だ。

 

 

「このうち、秋葉はこの事件に関与する気はないだろう。

近いうちに代行者にちょっかい出されると思うが、これは命に関わることじゃない。俺もさっきやられたし」

 

 

 これは琥珀に向かって言う。無駄な心配を避けるために。

 

 

「吸血鬼以外の三組は目的が同じ。だから、こちらと志貴、アルクェイド組は互いに潰し合う気はないし、情報も行き来できる」

 

 

 矢印を描き、関係を結んでいく。

 弓塚も頷いているので、先に進める。

 

 

「結論を先に言うと、この事件は志貴とアルクェイドだけで解決できる。

たが、志貴の能力には制限がかけられていて、他の魔術師、特に組織に属する魔術師に監視されている場合、使用が禁じられている」

 

 

 代行者の矢印を志貴へ向ける。

 原作の志貴より、この世界の志貴は強い。周囲を察知する力に自由に引き出せる七夜の技術。そして世界各地で収集した多くの刀剣を持っているのだから。

 

 ただ、志貴の能力が何たるかを知られていなくとも、魔法使いの弟子であるという事で目は向けられていたらしい。

 シエルの調査という言葉からも、志貴の容姿は多少なりとも出回っていると考えられた。

 

 ……青子がもっと上手くやってくれる事を期待していたが、志貴を八年も連れていた事を考えると、さすがに完璧な隠蔽は無理だったのだろう。

 封印指定なぞになっていないだけ、良しと思っておこう。

 

 

 最後に志貴とシエルの間にこちらの矢印を向け、図を完成させた。

 

 

「だから俺たちは、志貴とアルクェイドが元凶の吸血鬼と決着をつける時、この代行者が監視できないよう邪魔をする」

 

 

 今日の朝、志貴にある程度の事は聞いてある。

 街に潜んでいるロアの僕を殲滅するのにどのくらいかかるか聞いたが、志貴曰く三日で終わる。昨日で半分は片づけたから、後二日もあればとの事。

 

 そこら辺は青子の依頼で色々とパシられた賜物らしい。

 

元々、月姫の物語の半分は、吸血鬼退治よりも各ヒロインとの関係云々である。

今の志貴がゾンビ如きに後れを取るはずもないし、そういった意味では短い日数も頷ける。

 

 

 アルクェイドとの関係がどうなるかが唯一の不安要素だが、今の志貴は原作に比べてアルクへの愛情が薄いだろう。

どう見ても都古ちゃんよりだし。

 

 

 それがどう働くかはわからない。

 しかし、アルクェイドは志貴を金色の魔眼で動けなくした状況下であっても、血を吸おうとはしなかった。

 それは原作の話だが、アルクの志貴への接し方は原作通りだ。

 

 

だったら、後は本人たちに任せよう。どちらにせよ、簡単に介入できる話ではないのだし。

 

 

「でも、わたしたちはここに隠れてるんでしょ? 遠野君たちが動くタイミングってわかんなくない?」

 

「志貴にはもう携帯で連絡を取った。説明付きでな」

 

 

 志貴はこちらを巻き込みたくないと思っている。

 

 その気持ちは嬉しいが、シエルの監視がある中、ロアの相手をする事は志貴自身も困難だとわかっている。

 アルクェイドと二手に分かれる提案を志貴からされたが、万が一失敗したら、いずれ翡翠や秋葉、有間の人達にも被害が及ぶ。

 

そう言って、志貴の案は押し切った。

 

 

 よって、決戦の前に連絡が来る。

 それを合図に、こちらも指定の場所へ移り、そこで代行者を食い止める手筈だ。

 

 

「こんな感じだが、他に質問はあるか?」

 

「私は把握しました」

 

「うん、わたしも。……あれ、そういえば肝心な事、言ってなくない?」

 

「何だ?」                                                                                              

 

「その代行者さんの強さ。裏世界の中でもエリートな組織に所属しているんでしょ。わたしたちで勝てるの?」

 

 

 どの程度の強さを想像しているか知らないが、呑気な顔で聞いてくる弓塚。

 どこまで教えればよいか迷っていたが、その顔を見ると、もう少し緊張感を持ってくれと言いたくなった。

 

 

「……お前じゃ勝てないくらい」

 

「えぇ!? でもわたし、あの大きい獣の人を倒せたじゃん。あの人より強いの?」

 

「あいつを倒したのは志貴。調子に乗るなっての」

 

 

 どうやら先日の一件で浮かれているらしかった。

 お仕置きとばかりに、弓塚の前のお茶菓子を下げる。

 

 

「な、なんで取るの!? せめて餡蜜は」

 

「真面目に聞けよ、おい。……いいか、この代行者は組織の中でもトップレベル。

弓塚みたいな吸血鬼に対抗するための戦闘技術に特化しているし、何より不死身なんだぞ」

 

 

 弓塚の手が止まる。

 反応した言葉は不死身。その意味を俺に問い返す。

 

 

「え、不死身って?」

 

「どんだけ攻撃しても傷は治り、どんだけ殺しても生き返る。てか、さっき代行者との交渉失敗を話した時に説明しただろ」

 

「えっと、もう矛盾とか修正は治ってると思ってた……で、アキ君はその人と戦うの」

 

「正確にはお前がだ、さっちん。俺は後方援護に徹するからな」

 

 

 ゴツン、とテーブルに頭を打ち付ける弓塚。一直線にヒビが入る。

 

 

「そ、それって無理だよ!? 不死身なんて反則じゃん!」

 

「別に倒すわけじゃない、足止めできればいいんだ。

それに傷もすぐに癒えるわけじゃないから、戦う形さえ取れれば条件はクリアできる」

 

 

 真正面から勝負を挑み、時間を稼ぐ。

 

 逃げて隠れながら相手と戦う俺では無理。無視して先に行かせてしまったら駄目なのだから。

 だから、この戦法は弓塚しか行えない。

 

 

「で、でも、その人って不死身の上に強いんでしょ? 力勝負なら頑張れるけど……」

 

「確かに、いくら弓塚の身体能力が高くても、相手の対吸血鬼用の戦闘技術には追いつけない。

……弓塚の動きに慣れたら、幾つか先の手を読まれてやられるだろう」

 

 

 パワー、スピード、反射速度などのスペックは圧倒的に弓塚が上。

 だが、それでもシエルにはそれを覆すほどの豊富な技と戦闘経験がある。

 

 

 一発限りの勝負なら勝機はある。

 シエルが手の内を見せる前に、猛攻をかけ押し潰す。弓塚にはそれが可能だ。

 

 今回はそれと違い長期戦。

 いかに相手の攻撃を捌くかが問題となると、弓塚といえ荷が重い。

 

 

「だからと言って、無謀な事はさせない。そのための考えもちゃんとある」

 

「はい、私ですね、アキさん」                                                               

 

 

 琥珀は言うまでもなくわかっていたらしい。

 

 そう言えば最初に「だいたい予想できました」って言ってたけど……ここまで理解してたのかよ。何か怖いな、おい。

 だが琥珀がわかっているのなら、その分早く進められる。いつ予想外の事態が起こるとも限らないため、儀式は早いに越したことはない。

 

 

 琥珀に目配せし、立ち上がって部屋を出る。

 

 

「琥珀、こっちは一階にいるから、ほとぼりが冷めたら呼んでくれ」

 

「わかりました」

 

 

 弓塚が拒んだらどうしようか。

最近、弓塚の人権を無視している気がするが……まぁ、後は琥珀に任せよう。

 

 

 

 

 

 

<琥珀side

 

 

 

「それじゃ弓塚さん」

 

「え、何でアキ君出てったの? また状況がわからなくなったんだけど」

 

「服を脱いで下さい」

 

「何で――!?」

 

 

 弓塚さんはバッと胸を隠して私から後ずさります。

 ……ちょっと省略し過ぎました。

 

 

「アキさんの考えは、私の感応能力を弓塚さんに与える事なのです」

 

「感応能力?」

 

「私の能力です。術者と体液を交換する事で、相手の肉体、精神を補強します」

 

「……体液の交換って、えっと、まさか」

 

「だから脱いで下さい」

 

「ちょ、ストオオップ――!!」

 

 

 頑なに私の手を拒む弓塚さん。

 この方の力は知っていますから、無理に進める事はできません。

 

 

 しばらく考えて、一旦引くことにしました。

 

 

「では弓塚さん、まずはお茶を飲んで一度落ち着いて下さい」

 

「あ……どうも」

 

 

 温めのお茶を手渡し、飲み終わるまで待ちます。

 湯呑みが置かれたのを確認して、私は説得を始めました。

 

 

「弓塚さんが嫌がる気持ちもわかります。私などとそういう行為に及ぶのは、弓塚さんにとって好ましくないでしょう」

 

「ち、違います。別に琥珀さんの事が嫌いってわけじゃ……ただ、そういうのに免疫なくて」

 

 

 慌てて否定しながらも、真っ赤になって俯く弓塚さん。

何か可愛いですね。

 

 

「……琥珀さんの言いたい事はわかりました。その、感応能力ってものを使ってわたしをパワーアップさせるって事ですよね?」

 

「はい、そのための儀式が、術者との体液の交換になります」

 

 

 私の言葉を聞いて、弓塚さんは反復して呟く。

 納得のいかない顔。一体、何に対して?

 

 

「……琥珀さんは、嫌じゃないの?」

 

「私は構いません。弓塚さんはアキさんのご友人ですし、何よりアキさんが考えた結果ですから――」

 

「―――そう、それ!」

 

「?」

 

 

 弓塚さんはいきなり私を指さすと、バッと私に詰め寄る。

 

 

「さっきから何か話が早いなって思ってたんですけど、琥珀さんってアキ君の言う事、何でも聞いちゃったりしてませんか?」

 

「……そうですけど」

 

「疑問とか持たないんですか? これだって……まぁ、理由はありますけど、アキ君、ちゃんと琥珀さんに確認取りました?」

 

 

 心配そうに見つめられる。

 何か悪い事をしてしまったのでしょうか? ですが会話を振り返っても、何が理由かは思い当たりません。

 

 

「いえ、私はアキさんの事を信じているので、理由があってもなくても関係ないんです。

私が断るはずもないですから、アキさんも確認は取りません」

 

「こ、琥珀さんはそれでいいの?」

 

「はい、アキさんは昔から間違いなんてない“正しい人”ですから」

 

 

 当然のように言う。

 

これは私の中の真実。

あの日、子供の身でありながら私を救ってくれて、それから八年間、彼を見て来た。

 

 何をするにしても、効率よく、失敗なしに物事をこなす。

 身近で過ごしてきたからわかる。彼は私とは比べられない程、大人だったのだ。

 

 

 だから、彼は正しい。

 

 

 

 

 ……と、思っていたのだけど、弓塚さんはそれを否定する。

 

 

「それは、違うんじゃないかな。“正しい人”なんて言ったら、アキ君が可哀想だと思う」

 

「可哀想……ですか?」

 

「私が言ったら図々しく聞こえるかもしれない。琥珀さんよりアキ君との付き合いは短いし。

でも、アキ君はただ、小さい頃から私たちよりもずっと大人だった。それだけだと思います」

 

 

 アキさんが正しい人ではない。

 

 

……これは多分、初めて考える。

 

 

「琥珀さんの言い方だと、まるでアキ君が聖人かこっちが下僕みたいですよ。そんなのどちらとも違います、駄目です」

 

「駄目……でしょうか?」

 

 

 弓塚さんの言っている事はわかる。

 でも、それがいけない事なのか、私にはわからない。

 

 

「だって琥珀さんとアキ君、仲良しじゃないですか。

それなのに、琥珀さんがアキ君を“正しい人”と思って言う事を聞いていたら、そこに琥珀さんの意思はありません」

 

「私の意思……」

 

「そうです。そうでなきゃ、友情も愛情も絡み合わない。お互いに一方通行じゃないですか」

 

「あ……」

 

 

 何でしょう。

 弓塚さんの今の言葉、少し心に響きました。

 

 

 正しい人だと、アキさんが悲しい。

 

 ……ほんのちょっとだけ、わかった気がします。

 

 

「それじゃあ、アキさんを疑った方が良いのでしょうか?」

 

「……う、それは違う様な。……ごめんなさい、偉そうなこと言っておいて、上手く説明できないかも」

 

 

 首を捻り、悩む弓塚さん。

 私も一緒になって悩む。アキさんについて。

 

 

 今、私の中で真実が少し揺らいでいる。

 真実……というには脆すぎるかもしれません。でも、弓塚さんの言おうとしている事も、何となく、私は間違いじゃないと思います。

 

 

 この問いはどう解決すればいいのでしょうか。

 今まで、私が悩んだ事は無いに等しい。アキさんがいれば、そこに答えがあったのだから。

 

 

 だから今、私は答えの出し方が全くわからない状態で――、

 

                                            

 

 

「そうだ! 琥珀さん」

 

 

 笑顔で、弓塚さんは私の手を取る。

 何かが吹っ切れた、そんな顔で。

 

 

「わたしと友達になってくれませんか?」

 

「……はい?」

 

「琥珀さん、アキ君の事ばかり見てたから、多分、人との付き合い方が良く分からないんだと思います。

アキ君って変に大人びてるから」

 

 

 だから、友達になろう。

 ……何でしょう。弓塚さんがその回答に至った経緯は、よくわかりませんが……

 

 意味がわからないのに、私は若干、心の奥で嬉しさを感じています。

 

 

「ほら、わたしってドジですし、迷惑とかたくさんかけちゃうと思うんです。でも、そんなわたしを友達って思って接してみて下さい」

 

「弓塚さんを友達と思う……」

 

「わたしはアキ君と違って色々と間違いをしますし、琥珀さんから見て気に入らない事もすると思います。

だから、そんな時、琥珀さんが友人としてわたしを叱って下さい。

それで、こういう人間関係もあるんだなって思って下さい」

 

 

 

 

 弓塚さんは難しい顔をしながら、順番に言葉を紡いでいく。

 おそらく、言いたいことを口に出すのは苦手なタイプなのだと思います。それでも、必死に伝えようとしている姿に、私も熱心に耳を傾けました。

 

 

 

 

「お互いが歩み寄れば、いつか本当に信頼し合えるようになりますから。

そうすれば、アキ君との接し方も、何が正解で何が間違っていたのか、わかるようになると思います」

 

 

 ふぅ、と息を吐いて、先程とは別の意味で頬を染めながら、弓塚さんは恥ずかしそうに頭をかいた。

 そしてすぐに、偉そうなこと言ってすみません、と謝ってくる。私のせいで、少し無理をさせてしまったのかもしれません。

 

 

 精一杯、弓塚さんは私の事を考えてくれました。

 出会ってからまだ一週間ほどですけど、この人にとっては関係なかったのかもしれません。

 

 本当に、いい人だと思います。

                                                                

 

「……それでは、私から弓塚さんにお願いがあります」

 

「え、な、何でしょう!?」

 

「敬語、止めませんか?」

 

 

 ポカンとした表情。

 

 弓塚さんは頑張って“友達になろう”と提案してくれました。

 でも、これは私の問題。

 

だったら、弓塚さんにばかり頑張らしてはいけません。

 

 

「友達に敬語を使うのは変ですよね……ではなくて、変だよね?」

 

 

 自分で言っていて、凄い違和感がありますけど。

 

 

「えぇっと、でも琥珀さんって偉いし、お姉さんっぽいし……」

 

「友達なら気にしなくても構いまs……平気平気!」

 

「それじゃあ……琥珀ちゃん?」

 

 

 ……凄くむず痒いです。

ちゃん付けなんて生まれて初めて呼ばれたかもしれません。

 

いつも翡翠ちゃんって呼んでましたけど、こういう感じだったんですね……。

 

 

「い、嫌でしたか?」

 

「あ、あはっ、そんな事ないない。じゃあ、弓塚さんは……さつきちゃん?」

 

「中学の時は、さつきとか、さっちゃんって呼ばれてましたけど」

 

「じゃあ、さっちゃんにしましょう。いえ、しようしよう」

 

「……あ、あの、琥珀さん。無理だったら今まで通りでも。言い出したのはわたしですし」

 

「さっちゃん、敬語はダメ。…………それに、大丈夫です。弓塚さんの言った事、嬉しかったですから」

 

 

 そうです。さっき弓塚さんの言った事は、そんなに間違っていないのです。

 

 

 私がアキさん以外の人間関係をあまり知らない事。

 

 

小さい頃、屋敷の外へ出られなかった私は、アキさん以外の子供たちと遊んだ事がありませんでした。

アキさんの計画で遠野家の当主が亡くなり、私が外に出れるようになっても、そこに窓から眺めていた風景はなかったのです。

 

それは当たり前。遠野家は混血をその身に宿す。

 

成長した大人はともかく、子供は何かの拍子に暴走してしまう。

それを四季様によって見せつけられたのですから、親戚方もそんな所に自分の子供を置いておくはずがありません。

 

 

 そのため、新しい友達はできませんでした。

 それでも、私にはアキさんと翡翠ちゃん、秋葉様がいましたから、満足でしたけど。

 

 

「“琥珀ちゃん”……この呼び方、大切にするね、さっちゃん」

 

「琥珀さん……」

 

 

 弓塚さんに、いえ、さっちゃんに抱きつきます。

 友達……定義はわかりませんが、初めてできたのではないでしょうか?

 

 翡翠ちゃんは妹ですし、秋葉様は雇い主。

アキさんは……

 

 

(そういえば……アキさんと初めて会った時)

 

 

 やたら話しかけてきたり、ゲームに誘ってきたりしていました。

 もしかしたら、あれは私と友達になりたくての行為だったかもしれません。

 

 

(でしたら、アキさんには申し訳ない事をしてしまいましたね……)

 

 

 私は、友達と言うものがわからなかったから。

 自分が普通と違う事はわかっても、どこが違うかはわからないため、直せない。

 

それが、とても恨めしい。

 

 

「……でも、アキさんとさっちゃんがいれば、普通になれるかもしれませんね」

 

「え、何か言った?」

 

「何にも言ってないでs……ないない」

 

「それ似合わないなぁ……って、わわ!」

 

 

 さっちゃんを押し倒し、ボフっと倒れこむ。

 私はその上に身を乗り出し、身体を密着させながら、さっちゃんの服の中へと手を忍ばせる。

 

 

「え、え、ちょっ、琥珀さん?」

 

「琥珀ちゃんじゃないんですか?」

 

「こ、琥珀ちゃん! 手、服に入ってる、しかも布団いつの間に!?」

 

「あはっ、私は遠野家の使用人だから」

 

 

 上と下を同時に剥ぎ取って、白いお揃の下着が現われる。

 

 

「フリル付き……可愛い。あれ? さっちゃんの胸、私より少し大きい?」

 

「にゃ、くすぐったい! 琥珀ちゃん、ス、ストップ! と言うか、感応能力の話はまだ……」

 

「時間もあまりかけられないしね。それに申し訳ないけど、今の私はまだアキさんを“正しい人”って思ってるから」

 

「え、それじゃあ……」

 

「さっきの事は、これからさっちゃんとゆっくり考えていくことにしま……するから。そんな訳で、今はアキさんのために働きましょう」

 

「わ、わっ! そこダメ、ん、ん〜〜!!」

 

「さっちゃんの最後の防衛ライン、突破完了」

 

「さ、寒い、風邪ひいちゃうよ!? あれ、でも何か、身体が熱いような」

 

(あ、ようやく媚薬が聞いてきましたね)

 

 

 効くのに時間がかかりましたが、吸血鬼だからでしょうか。

 さて、それでは頑張りましょう。秋葉様より、何だか楽しくやれそうです。これが、友情パワーというものでしょうか。

 

 

「ん、琥珀ちゃん、わたし……」

 

「はい、さっちゃん、リラックスして私に身を任せて」

 

「あ、あ、……あああっ」

 

 

 

 

 いただきます、とは言いませんよ?

 

 部屋の電気を消し、二人で布団の中央へと移動します。

 

 

 ……ここら辺で、終わっておきましょうか。

何が終わるって、私もわかりませんけど。

 

 

 

side out

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……大丈夫だろうか」

 

 

 コーヒーの缶を片手に、物思いに耽る。

 今現在の琥珀と弓塚のことではなく、今後のことで。

 

 

(懸念は何と言っても、シエルとの戦闘……)

 

 

弓塚に感応能力を加えれば、シエルに対抗できるだろう。

 浅いが、戦闘経験もある。こちらも後ろから魔眼と投擲で援護をすれば、何とかなるかもしれない。

 

 それでも、厳しい事に変わりはない。

 

 

(枯渇庭園が使えれば……)

 

 

 弓塚最大の能力である固有結界。

 

それを扱う事が出来れば、対魔術師戦において弓塚が負ける事はほぼなくなる。

 シエルのメイン武装である黒鍵は聖書のページに魔力を通し、刃へと変化させている。

 

ならば、その固有結界はシエルの天敵となりうるのだが。

 

 

「……無理だよな。弓塚はまだ、死徒になってから一月も経っていない」

 

 

 原作は最後までネタ領域を出なかったため作られていない。

 そのため、枯渇庭園に関する情報はその効果以外、わからないのだ。

 

 いくら才能のある弓塚と言っても、短い期間で自らの奥義と呼べるものに手は届かないだろう。

 一応、助言はしておくが、今回の戦闘でそれをあてにしては駄目だ。

 

 

 もっとも、戦闘をするまでもなくシエルが退場するのなら、それが今のところ一番良い。

 

 

 原作では、ネロ・カオスを倒した後、志貴は単独でロアとシエルのそれぞれに遭遇している。

 もし、ロアと戦闘する前に志貴がシエルを“殺す”事があれば、ファンの方々には悪いがこちらにとっては有り難いのだ。

 

 だが、おそらくそれも無理だろう。

 

 魔術師相手に志貴が魔眼を使うという事は、そのタイミングは必殺の時以外にない。

魔術師に見られてはいけない、つまり見られる場合には、その後すぐに抹殺しなければならないのだから。

 

 

 そうなると志貴は必殺の間合いを取るまで、シエルの攻撃を避けるか弾くか、そのどちらかしかない。

 線を切る行為に比べ、相手の懐に跳び込むチャンスは格段に減る。故に、勝つのは難しい。

 

 

 

 

 

 それでも……いけない事だとわかっているが、これからの三日間、人の死を願った。

 

 

 だがそれも叶わず、自体は予想通りに進み、三日目の夜、志貴からの連絡が入る。

 ロアの潜伏場所は原作の同じ、志貴が通う高校だった。

 

 

 弓塚と琥珀を連れ、夜道を走った。俺が先導し、弓塚が琥珀を抱え後に付く。

 

 

 おそらく、今夜で最後。

 七夜の体術と浅神の魔眼、その持てる全てを出しつくして、望む結末を手に入れてみせようじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

/

 

小説置場へ

 


今回は琥珀さんの補完と終戦の準備。敬語を使わない琥珀さん……何という違和感だらけ。

心の動きを書くのはやはり難しいです。文章力がはっきりでますね……未熟で申し訳。

 

三話使って秋葉、シエル、琥珀の立ち位置をそれなりに示す事ができたでしょうか? 次回は四度目の戦闘に入ります。