「ち、違うって。たまたまドキッとするのが小さい女の子なだけでさ……」
「それを世間ではロリコンと言う」
うろたえながら否定する志貴にビシッと言ってやる。
夕暮れの中、隣を歩く志貴の顔はどっかののび太の様に情けない。それなりに言葉が堪えたのかもしれん。
「……仕方無いだろ、年上の女の人は怖いんだ。
綺麗だとは思っても、近寄りたくはない。……いつからそうなったのかわからないけど」
(……何やったんだよ、青子は?)
琥珀と買い物をした後、俺は屋敷へ戻らずそのまま有間の家へ向かった。
そこでまあ、俺を助けてくれた時とは違った意味で微笑んでいる志貴を見かけて、理由はもちろん都古なわけで、何となく流れに逆らえなかった事もあって三人でずっと遊んでいた。
ジェンガーとか久々にやったぜ! (積み上げた木のブロックを互いに抜いていくやつ。崩した人が負け)
五時を過ぎた辺りでお開きにして、今は屋敷に戻る途中。
都古ゾッコンで志貴が渋ると思っていたが、意外にも年相応? に大人な対応で有間家を離れた。
迷惑をかけないためか、そこら辺は志貴の“家族”に対するマナーがあったらしい。
「ロリと言うより、年上がダメなのか……でも都古は年下過ぎね?」
結局ロリである。
しかしここで問題が一つ。
(年上がダメってことはアルクとシエル……)
表ルート涙目。
何気に翡翠と琥珀も一つ違いで年上なので、このままでは秋葉の一人勝ち。不戦勝もいいところだ。
「なあ志貴、年上がダメなのはわかったけど、見た目が年上じゃなかったらどうなんだ?」
「う……、どうだろ? 考えたことなかった」
「例えばあれだ、ロリババアみたいな」
「そ、そんな人いるの!?」
「……さすがにいない、か?」
いや、でも実際に月姫の世界がこうやってあるわけだし、探せば案外見つける事も実は不可能じゃないかもしれない。
いいよな、幻想郷。バカな願いだが、一度でも行けるものなら行ってみたい。
「って言うか、何でそっちに憑依しなかったんだよっ。安全度がまるで違うし!」
「えっと、アキ?」
「……すまん、何でもない。ちょっと取り乱したわ」
済んだ事を嘆いても仕方がない。
考えて見れば、月姫は話の流れも知っている分、まだいい方……と思える。これがドラゴンボールとかだったら戦略なんてものはほぼ関係なくなっていて、完全に主人公頼みになってしまうわけだ。
それはさすがにまずい。しかもどのキャラに憑依しても大半は一、二回死んでるし。
「確かにここも危険だが、もっとヤバい作品に比べたらまだマシ……って志貴? 笑ってるけど、何か可笑しなこと言ったか?」
「いいや、別に……ただ、」
数日前の夜、弓塚と闘った時とはかけ離れた、穏やかな顔で志貴は言う。
「アキのそういう難しそうな顔を見ると、帰ってきたんだなぁと思ってさ。
あ、どっちかと言うと、しかめっ面か」
空を見上げて懐かしそうに。
軽口を叩いている志貴を見て、こっちも自分の記憶にある“主人公”と何ら変わっていなくて安心する。
「しかめっ面は失礼だろ。あの頃は子供なりに色々と疲れてたんだよ」
憑依してから、生き残るのに必死である。しかも現在進行形だ。
「そう言うお前だって昔と大して変わってないだろ。
……まあ、少しは好青年っぽくなったんじゃないか?」
「ありがと。アキだって成長してるよ。子供の時より大分綺麗になった」
「ぐっ、……お前今、素で言ったろ……」
口説かれても何も嬉しくないんだが。
容姿の事は仕方ない。中途半端に髪を伸ばしてる俺も悪いし。
……丸坊主にしても、尼さんに間違えられるだけだけど。
「秋葉が一番変わったかな。最初見た時、覚えていた秋葉と全然違ったからさ、びっくりしたよ」
「翡翠と琥珀はどうだ? 琥珀の方を翡翠だと間違えたりしたんじゃないか? 昔と比べて性格が逆転……とまではいかなくても、見分けが付きにくいだろ。髪型同じだし」
「うーん、間違えるもなにも、帰ってきたら門の前に翡翠が立ってて、そのまま久しぶりだとか今はメイドをやってるとか話されて、俺も待っててくれた事に嬉しくなって普通に昔話に花を咲かせてたから……、
何て言うか、間違える暇がなかった」
「……ナンテコッタイ」
いや、翡翠がポジティブなのはいい事か。
「―――と、そうだ」
昔話ついでに大事なことを思い出す。
あの夜、聞けなかったこと。すでに始まっている本編のためにも、知っておかなければいけない事を。
「志貴、こっちは七年間、一応何事もなく平々凡々と暮らしてたけど、そっちはどうだった?」
「え、どうって?」
「魔法使いについていったんだろ? その間、どうやって過ごしていたかだよ」
さりげなく、そして大雑把に訊く。
その中で知りたいのは志貴の戦闘能力について。原作との違いを確かめたかった。
「ん……取りあえず各地を転々と旅をしてた、って感じかな。
先生……その魔法使いに依頼が入ったらそこへ向かって……それの繰り返し」
「依頼って、志貴も手伝ったりしたのか?」
「最初は手伝おうとしたけど止められて……成長するにつれて段々とこき使われるようになってきた、と思う……」
「……パシリ?」
「はは……だいたい合ってる」
そのワードに少し涙ぐむ志貴。
「お前も苦労してたんだなぁ……
けどさ、魔法使いの依頼をサポートするってのは凄いんじゃないか? やっぱりあれか、それが出来るように訓練されたりしてたって事だろ?」
「いや、自分で訓練はしていたけど、された事はなかったよ」
「……は?」
「だからさ、その魔法使い……先生って呼んでいたんだけど、先生に戦闘訓練はもちろん教えられた技術とかもないんだ。注意される事はあってもね」
志貴自身はそれが残念なことなのか、苦笑いで語っている。
だけど、それはおかしい。それでは矛盾している。
「ちょ、ちょっと待て、志貴。お前この間“強くなりたかったから魔法使いについていった”って言ったよな? その話が本当だとしたら、魔法使いと一緒にいる意味がないんじゃないか?」
「うん、だから最初の頃は無理やり依頼とかについていって……結構、死にかけた」
「そ、そうか。良く生きのびれたな……」
「まあ、先生も加減してくれてたし」
「先生にやられたのか!?」
突っ込んでる場合じゃ無い。落ち着け、俺。
少し頭を整理。志貴は青子のパシリをしていたが、青子に師らしい事をしてはもらえなかった、と。
「じゃあ何だ、志貴は魔術を使えないのか? この間、長い筒から剣とか棒を出してなかったっけ? あれはどう考えても空間を広くする魔術だろ」
Fateの方でも凛が使っていた記憶があるので、魔法使いにしか出来ないような高等技術というわけじゃないはず。
だいたい、青子は確か攻撃魔法以外は並の魔術師レベルだったので、志貴がそれを教えられていてもおかしくはないと思っていたのだが。
「ああ、あれは荷物が多いと不便だからって言って、特別に先生が術式を組んでくれたんだよ。アキには言ってなかったけど、実は刃物を集めるのが趣味でさ。
……七年間も世界を旅してたから、結構半端ないくらいに収集しちゃってるんだよね」
「色々とびっくりだ」
刃物の趣味は知ってたけどさ、公式だし。
って事はだ、あの筒っぽいのに魔術をかけたのは志貴じゃなくて青子であって……。
つまり、青子の近くで裏の世界を渡っていたわけだけど、志貴は特別、何を教えられたわけではないと言う事。
「……でも、まさか七年間も魔法使いと一緒にいて、魔術を使えないってのはなぁ。
上手くいけば、志貴から教えてもらおうと思ってたんだが」
「……アキ、さっきから勘違いしてない?」
「勘違い?」
「そう。多分、俺が魔法使いの弟子になったと思ってる」
「違うのか?」
「違うよ」
……What?
「待て、待て待て、すまんがもう一度言ってくれないか?」
「だからさ、弟子じゃないんだから魔術を教えてもらえなくて当たり前だって――、」
「ちょ、え、それマジか!?」
「そんなに動揺するとこ? 少し落ち着いてって」
のほほんとした顔で志貴は言うが、魔法使いについていく=弟子になる、と考えていたこちらとしては、予想との噛み合わなさに驚きもする。
「じゃあお前と魔法使いの関係って……」
「さっきから言ってるだろ。“先生”だって」
その言葉を志貴は自然に使うが、俺にはどうもわからない。
七年間一緒にいて、魔術の一つも教えられなかった志貴。
では一体、何が青子の何が“先生”なのか。
「いくら頼んでも、戦闘や魔術に関してあの人は教えようとはしてくれなかった。人にものを教えるのが苦手だ、とか言ってたから、多分、それもあるかもしれない。
……だから、七年間で教えてくれたのはたった一つの事」
俺の心の問いに答えるように、先程とは変わって言葉一つ一つに真剣味を帯びる。
昔話を楽しむような雰囲気は、すでに薄れている。
「その一つって……何なんだ?」
「……この“眼”との付き合い方、かな。
ごめん、アキにもこれ以上は言えないんだ」
途中まで言って、志貴は笑って誤魔化した。
シリアスな話を嫌うのか、それともその先は本当にタブーなのか。
……だが、直死の魔眼の事であるのは間違いないらしい。それを志貴が持っている事を、青子は周りに一切気付かれないようにしている、と見るのが妥当か?
「自分で言うのも何だけど、強い力を持っていて、その力とどう折り合いをつけて生きていくかっていう事を教えられたんだ。
強過ぎる力は、それを持つ者を滅ぼしてしまうのも、決して珍しいことじゃないらしいから」
「……そうか、わかった。俺もその事に関しては何も聞かない事にするよ。
ちなみに付き合い方ってのは教えてもらっても大丈夫か」
「まあね、先生に注意されているのは能力を知られる事だから、そのくらいだったら」
―――取りあえず、一番の注意事項を。
そうして、志貴は言う。
屋敷へと繋がる坂道の直前。これを上った先には、心配顔の翡翠が門の前で待ってるだろう。琥珀に弓塚の世話を頼んでおいたから、帰ったらまずは様子を見なくては。
「―――魔術師に能力を知られること。
特に教会と協会の人間の前では、絶対に能力を行使するな」
憑依in月姫
第十一話
「さて、今から張り切って始めたいと思う」
「えっと……いきなり(森の中に)連れてこられても、何がどういうわけかわからないんだけど。
しかも何で私ジャージ? こんな夜中に何かするの?」
「戦闘訓練をやる」
「へ、アキ君が? じゃあ私はそのお手伝い?」
「お前もするんだよっ!」
「わ、私も――!?」
日課である戦闘訓練。
今日は、と言うか今日からは弓塚も加えて行うことにした。
昼頃に悩んでいた弓塚の衣食住の問題も無事解決。ちなみに住は地下にある。
「あれ……おかしいな。私の事、アキ君が守ってくれるんじゃなかったっけ?」
「そうしてやりたいのは山々だが、多分それ無理。
だいたいパワーバランスが二十対一くらいで違うんだから、どっちかと言うと戦闘面ではお前が守ってくれよ。こっちは生活面で面倒見てるんだし。
あ、言わなくても間違えないと思うが、俺が一の方だぞ?」
「う〜、私、女の子なんだけど……」
「その前に吸血鬼だろ。
悪いことは言わないから、自分の身は自分で守れるようにしといてくれ。絶対、損はしないから」
弓塚は自分自身のこと、つまり吸血鬼についての知識はほとんどないだろう。
吸血鬼になってから日が浅いし、そもそも表の世界ではそんな情報は入らない。
だから自身が狙われる立場であるという実感は……本能か何かで少しはわかってるかもしれないが、薄いと思う。
魔術師上がりで吸血鬼になったわけじゃなく、前は普通の女子中学生だったからな。
来たるべきカレーのためにも、力はつけておかなければならない。
(と言うのもあるが、本音は何と言うか……)
志貴とのさっきの会話で、フラグが立った気がするし。
恋愛の方じゃなくて、死ぬ方のが。
どのみち志貴が取った原作とは違う行動――青子についていった事が、物語にどう影響するのか。
志貴の実力でも変わってくるが、それとは別に青子関連の事が世間にどれだけ広まっているか。そこも注意すべき点だと思っている。
まあ、せっかくでかい持ち駒があるのだから、使わなきゃ損だと思ったわけで。
取りあえず、俺にとってはここが人生一番の頑張りどころなのは間違いないのだから、油断せずに打てる手は打つべきだろう。
「でもさ、訓練って言っても何すればいいの?
アキ君と闘うとか?」
「俺が死ぬって、冗談抜きに。
弓塚の場合は筋トレの必要ないだろうし、まずは俺がパンチの仕方を教えて……その後はひたすら、身体を使いこなせるようにする。潜在能力を引き出すってやつだな」
「ん? 筋トレはわかるけど、パンチの仕方? キックとかは必要ないの?」
「いや、単に教えられないだけ。ジャブとストレートとワンツー、その三つだけ弓塚に覚えてもらう」
「……アキ君ってボクシングやってたっけ?」
「……ずっと昔に。弓塚と会う前に少しだけな」
嘘はついてない。
部活じゃなくてサークルだったけど。
「でもボクシングってスポーツでしょ。
その、アキ君の言ってる事を否定するわけじゃないんだけど、私がそれ覚えても意味あるのかな?」
「別にそれメインで戦えとは言ってないだろ。こういうのは戦いの幅を広くする意味で捉えてほしい。
普通に考えれば、吸血鬼なんだし爪で引き裂いた方が早いかもしれない。けど、さっちんにはパワーが洒落にならないほどある。それもコンクリートを易々と砕くほど。もうこれ人間じゃ無い、と言うかコンクリートがどれくらい固いか知ってるのか、お前?」
「し、知ってるよそれくらい! それとさっちんって呼ばないでよ!」
「……突っ込むとこ、違くないか? 人間じゃ無いってところはスルーって……」
ごほん、気を取り直して。
「まあ、つまりは相手によっては打撃の方がダメージを与えられやすい場合もあるってことだ。相手を遠くに吹き飛ばすにも使えるしな。
しっかり脇をしめて、上手に背筋を使って打てばそれだけで威力は上がるんだぞ? 経験からの意見だから、そこは保証する」
手の引き戻しを早くしたり、当たる前に少し捻ったり。
覚えるだけなら、そんなに難しい事じゃない。実際に正しい形で打てるかどうかは別だが、そこは一日中暇な吸血鬼。鏡を見て反復すればいいだろう。
「そういう訳で、納得してくれたか? 文句と質問があるなら受け付けるぞ」
「う〜ん、文句はないよ。私のために考えてくれてたんだもん、だったら頑張らなきゃ。
質問は……えっと、私はわかったけど、アキ君はどんな訓練するの?」
「俺? 俺はこれで投擲スキルをアップさせる。ひたすらにだ」
そう言って用意していた袋から二つ取り出す。片方を装着して、弓塚に見せた。
「わ、それって確か手甲だっけ? もう一つは……尖った棒?」
「棒手裏剣だ。弓塚は見るの初めてか?」
「うん。ね、ちょっと触ってもいい?」
「構わないけど……」
わわっ、凄ーい、と珍しいのかはしゃぐ弓塚。
珍しいのはわかるけど、凄いって弓塚が言うのはどうかと思うぞ。だってそれを投げつけたところで弾いちゃうし、こいつの身体。
「棒手裏剣って名前だけど、あっちの穴が開いてる手裏剣は使わないの? あの漫画とかでよく忍者が使ってるやつ」
「あー、そっちの方が使いやすいんだが、色々欠点もあってな。
特に持ち運びにく過ぎるってのは痛かったんで、結局こっちの方にした」
袋から新たに棒手裏剣を取り出し、木に向かって投げつける。
夜中と言っても月明かりの下。弓塚も、ついでに俺もどちらかと言うと夜行性なので、それくらいの光があれば十分だ。
投げた手裏剣はカツっと音を出して真っ直ぐ刺さった。
上手く刺さるようになると、気持ちがいいものである。
「うわー、上手いって言うか何か様になってる。結構練習したの?」
「まあ、それなりに。他にもナイフの扱い方や護身術もやってたけど、今はこれと……眼と避け方くらいだな」
近接戦闘でも有利に立てるよう七年前から色々と学んではいたわけだが、それらは弓塚との戦闘以降にすっぱり諦めた。
「眼?」
「後で使うから、その時にでも説明する」
実際に見せた方が早いし。
それから運動ついでに数本、同じ場所を目掛けて投擲する。
カッカッカッと立て続けに響く音に隣で弓塚は感心している。ほわーとか言いながら口開けて。
だが投擲が二十に入った辺りに、感心している表情から一転、眉を寄せて考えてるような顔になった。
「ねえアキ君。思ったんだけど、何で手裏剣なんか使ってるの?
ほら、昔は仕方ないにしても今は拳銃とかマシンガンがあるじゃん。そっちの方が強くない?」
「……確かにそっちの方が威力はあるけどな。そこは色々と理由があるんだよ」
答えを聞いて、弓塚は不思議そうに首を傾げる。
気持はわからなくもない。拳銃やマシンガンより棒手裏剣の方がいいと言われても、あんまりピンとはこないだろう。
だが、拳銃でも何にでも、戦闘に持ち込むなら使いこなせなければ意味がない。
攻める分には拳銃の方が勝ってるなぁとは思うが、そもそもメインで戦う気は全くないのだ。使い道としては相手の牽制や、飛来してくる物体を撃ち落とせればそれでいい。主に黒鍵とか。
その際に、拳銃で撃ち落とすような精密射撃を自分ができるとは想像できない。どこかの黒猫じゃあるまいし、まだ手裏剣の方が“当てる”面では銃弾より大きくて使いやすい。
そこで棒手裏剣だったら投擲音もなく、不意打ちには持ってこいの代物。
と言うか、弓塚との戦いではっきりわかったが、化け物相手に傷つけたり殺したりすればいいとか思ってはいけない。もう気を逸らせればオーケーだ。
この身体が一般人と比べて性能が良いから、どうも“頑張れば勝てるんじゃね?”的に勘違いしてしまう。化け物との間には分厚すぎる壁が何枚もあるって言うのにさ。
そう言う風にまあ、色々と理由があるわけだが、
「一言で言うと、こっちの方が性に合ってるってわけだ」
文明機器より原始的な方が身体に馴染む。七夜だからってのが原因かもしれん。
「で、質問は終わりか? だったらさっさと始めるぞ」
「あ、待って、もう一つ。
えーと、答えたくなかったら答えなくていいんだけどさ、失礼かもしれないし……」
何か知らないが、言いにくそうに口をもごもごさせる。
弓塚なりに気を使ってるかもしれないが、
「別に気にしなくていいぞ。逆に弓塚はわからない事は積極的に聞いた方がいい。今は特にな」
「じゃ、じゃあ訊くよ? その……」
「何だ?」
「……アキ君は、どうして戦うの? いくらこの町で事件が起こったとしても、普通の人は戦闘訓練なんかしないよ。それをさ、してるって事は、アキ君は自分からその事件の中に入るってことだよね?」
いつものボケた声が、少し真面目に聞こえる。
それは心配からか、もしくは俺が“普通の人”とは違う事を怖がっているのか。
「戦ったって誰も褒めてくれないのに。わ、私を止めようとしてくれた時もアキ君、殺されかけたじゃん!? 普通は怖いよ、私だって怖くて……アキ君は怖くないの?」
「……そりゃ、怖いけど……なんて言ったらいいかな」
弓塚の訊きたい事。それはつまり、俺が何を考えてるのか、どうしたいのかと言ったもの。
私と同じように普通に生活を送っていたアキ君は、何でこんな事をしているのかと、付き合いが長い分、一緒に“日常”を見てきたから理解し難い所が多いのだろう。
「……って何で泣いてんの? お前」
「ぐすんっ、……何でもないもん」
プイっと横向いて膨れる。なぜか弓塚が拗ねた。
「訳わからんが……弓塚の質問に答えれば“色々知っていて、さらに自身にそれなりの力があるから”ってところかな」
「え……自意識過剰?」
「違うわ! ……まあ何だ、少しネタばれすると、お前を襲った奴に心当たりがある」
「え、ええええええ―――!!?」
「ばっ、叫ぶな! 声大きすぎだ!」
「あ、ごめ……え、でも驚くよ!? 何でアキ君が」
若干、取り乱す弓塚は予想していたが、やはりうるさい。
「いいから落ち着いて話を聞け。
でだ、そいつを放っておくとマジ、大変な事になる可能性があるから、それを阻止するためにこうやって訓練してるわけだ」
「わー、そう言うのってどこで知ったの?」
「ここ遠野家は情報網が広くてな。俺は仕事の手伝いしてるから、情報はばっちり入ってくるんだよ」
はい、嘘です。心当たりがあるを通り越して、すでに犯人とかわかってるしな。
仕事って言っても、書類整理やらでパソコン打ってるだけだし、裏世界の情報なんて入ってきません。
「さっき怖いって言ったのは本心からだ。だけど、それを抑えてでもやらなきゃいけない事だと思ってる」
弓塚の目を正面から見つめて答える。
ガキの頃に足掻いてみて、結局、月姫の物語から逸れる事はできなかった。
だったら後は、どのルートを通ろうがEDまで足を外さずに進めるしか道はない。
町の人……は正直どうでもいいが、自分の家族、友人は守りたいのだ。
この身体に受け継がれた七夜の体術と、浅神の魔眼を駆使してっ!!
……なんてカッコイイことを言えるのも、一人で戦うわけじゃないからだが。
一人だったら心細いし、多分逃げ出してる。月姫は化け物のバーゲンセールだし。
そう、“あくまでサポート役”だから何とか動けるのだ。
これがもし志貴にでも憑依していたら、たまったものじゃ無い。
志貴には悪いが、本編が始まる前にプレシャーとか恐怖に潰されて絶対に逃げ出してた。保証する。
「うぅ……アキ君って意外にいい人だったんだね。私、ちょっと誤解してたよ」
「おおっ……」
心の声を聞いていない弓塚は、良い面だけ聞いて泣いてるよ。
そっちも嘘じゃないけど、何も泣かんでもよくないか?
「……まあ、わかってくれたならいいんだが」
「うん、大丈夫! ちゃんとわかったよ、アキ君の気持ち。少しこ、怖いけど……私も協力する。
アキ君だけ危ない目に合わせるわけにはいかないもん!」
「よし、何か情けなさが増した気がするが、協力してくれるって言うんなら大歓迎だ。弓塚なら尚更な。
んじゃ、さっそく頼みごとが一つ」
「何? 遠慮しないでどんと来てよ」
「手榴弾を食らってみてくれ。お前相手にどれくらいダメージがあるか知りたいんだ」
「そ、それは無理だよ!?」
……後日談だが、手榴弾も諦めた。
代わりに閃光玉と煙玉。相手にもよるが、こっちの方が有効だと思ったわけだ。
つまらん、と思った方、何と言うかすみません。
今回は志貴の位置づけとアキの行動方針を。書いてて思ったけど、もしかしたら志貴の喋り方が変かも知れない。もし他にもおかしな所がありましたら、掲示板に書いて頂けると有難いです。
……最後の締めが無理やりじゃね? ってのはできれば無しでお願いします(- -