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「――志貴、どこか行くのか?」

 

「ああ、ちょっと有間の方に挨拶をね」

 

 

 志貴が帰って来てから二日後、その朝の事である。

 

 八年ぶりに志貴と再会した秋葉と翡翠の喜びようは凄かった。

 もちろん俺も嬉しかったが、パーティーやら何やらを開いてはっちゃける前に、志貴に関する手続き諸々を進めなくてはならない。

 

 そんな訳で、落ち着いて志貴を向かい入れるためにも、さっさと仕事を進めているのだ。

秋葉や翡翠も熱心にいつもの五割増しで。

 

 

「秋葉から聞いたんだけど、八年前、有間の人たちが俺を引き取るって話があったらしくてさ」

 

「そういえば一応、そう決まってたな」

 

 

 肝心の志貴がいなくなってしまったため、その話は流れてしまったわけだけど。

 

最初は俺が行くのかなあ、なんて思っていたが、当時は当主の槙久も死んで混乱していたので、仕事を手伝える俺は志貴と違って遠野家を離れる事はなかった。

 

 

「そうか、アキは秋葉の仕事の手伝いしてるから知ってるか。

……だから、有間の人に今更だけど迷惑かけた事を謝っておこうかと思って。本当なら俺の家族になっていたかもしれないから」

 

 

 (……こいつの家族愛の幅は、どんだけ広いんだ?)

 

 

 原作との志貴の違いになかなか慣れないが、その点以外は大して変わった様子はない。

 

 むしろ、俺にとっては望ましい方向でもある。

この家が好きなのは、俺も同じなのだから。

 

 

「夕方までには帰ってこいよ。夜には志貴のパーティーを開くって秋葉も張り切ってたし」

 

「大丈夫、そんなにかからないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう言って屋敷を出てからおよそ六時間が経過した現在。

志貴はまだ帰ってきていない。

 

 自室で休憩しようにも、どうも気になって仕方ない。仕事中もそうだった。

 

 

「……アキ君、さっきからずっとそわそわしてるけど、どうかしたの?」

 

 

 俺の部屋の隅で漫画を読んでいた弓塚が、呑気な顔でこちらを向く。

 昨日の殺し合いの末、それなりに落ち着いた弓塚。

 

 現在はボロボロの服を着替えて、俺が貸した服(男物)を着ているに至る。

 下着とかは知らない。

 

 

「穿いているのか、いないのか……」

 

「ん?」

 

「いや、触れるのはやめておこう」

 

 

 志貴が下手な事態に巻き込まれていないか心配だってのに、弓塚の問題もまだ片付いていない。

おそらく志貴以外は、弓塚が俺の部屋にいる事を知らないはずだし。

 

 

「そんなに気にしなくてもいいと思うんだが……」

 

「ダ、ダメだよ!? ち、近づかないのは約束だからねっ」

 

 

 ささっと壁に背を付けて、できる限り俺から離れる。

 弓塚自身、ここ二日間、風呂に入っていないのがとてつもなく嫌らしい。

 

 食事の問題に加え、輸血パックを仕入れる手段も考えなくてはならない。服とか身なりの事もあんまり先には延ばせない。

 

 

「……弓塚ルートで志貴が貯金を使い果たした心境が良くわかるな」

 

 

 まだ公式には出されていないが、プラスディスクか何かの方で化け猫がそんな事を言ってたような。

 

 で、ベッドに横になりながら、弓塚の問題に悩みつつ志貴の心配をして――――、

 

 

「――――た、大変です! 大変なんですよっ、アキさん!!」

 

「あっ……」

 

 

 和服の少女がノックもしないでいきなり部屋に飛び込んできた。

 

 

「志貴さんが、志貴さんが…………って、この方はどちら様ですか?」

 

 

 扉の前に立ったまま、きょとんと俺と弓塚を見る少女――琥珀。

頭の中ではもの凄い速さで状況分析が始まっているに違いない。

 

 

「屋敷に客人を連れてくるとは、知らされていませんけど……」

 

 

 知らされていなくとも、普通なら気づくことくらいはできるだろう。

翡翠が屋敷を掃除して回っているし、黙っているのも怪しい。そもそも、玄関の靴が増えていればわかるはず。

 

しかし弓塚は窓から入らせた。つまりそれは、そこまでして隠さなければという証。

 

 

「アキさん、どういうおつもりですか?」

 

「……いや、何と言いますか」

 

 

 無表情で睨んでくる琥珀には迫力がある。

 嫉妬? いやいや、確かに琥珀との仲は良いが、好意とかはないと思う。

 

 今はただ単に、一屋敷管理の仕事として問い詰めている。だから余計に怖い。

 取りあえず俺、れ、冷静になれ。

 

 精神年齢なら遥かに俺の方が上なのだから。

 

 

「――――とか落ち着いてる場合じゃ無いっ!! 琥珀、志貴がどうしたって!?」

 

「ちょ、アキさんっ、話を」

 

「後で説明する、今はそれどころじゃないだろ!」

 

 

 慌てて琥珀に詰め寄る。

 

志貴がどうしたのか、思いつくふしはたくさんある。少し性格が変わっているのなら尚更だ。

 どっかの金髪を殺して自首したのか、血まみれで道に倒れてたのか、それとも魔法使いでも現れてまたどこかに行ってしまったのか。

 

 

「お、落ち着いて下さい。今言いますから……」

 

 

 若干頬を染めて、一歩下がる。

 咳払いをしてから、何とも困った顔でこう言った。

 

 

「――志貴さんが、都古ちゃんにゾッコンなんです」

 

 

 

 

 

 

憑依in月姫

第十話

 

 

 

 

 

 

「――――というのを翡翠ちゃんから聞きましてですね」

 

「はあ……それにしても何で翡翠が知ってたんだ?」

 

「あれ、アキさん知らなかったんですか? 志貴さんを有間の家まで道案内したのは翡翠ちゃんですよ」

 

 

 ああ、だから情報源が翡翠なのか。

 

 とまあ、何気ない話をしながら琥珀と二人で歩を進める。

 

 小春日和といった感じで、散歩には持って来いの陽気。

隣を歩く人物が和服ってのは目立ってしまって頂けないが……正直、もう慣れた。

 

 

「そう言えば翡翠のやつ、錯乱とかしてなかったか? されてても困るけど」

 

「うーん、何か翡翠ちゃん自身“今起こった事をありのままに話します。でも自分自身何を言ってるかわからない”的な感じでしたね。

 顔が真っ青で、見てるこっちもどうにかなっちゃいそうでしたよ」

 

「そ、そうか」

 

 

 翡翠でそこまで取り乱すのだから、秋葉に知られたらどうなることやら。

 

 

「取りあえず、先に秋葉を眠らしといたのは正解だな……」

 

「熱心に仕事している所を、後ろから忍び込んでズバビシッ! 普通の人間なら半日は起きない程、強力な麻酔を打ちました」

 

「よし、良くやった」

 

 

 翡翠に留守を任せ、俺と琥珀は有間にいる志貴の所へ。

何を説得するわけでもないが、原作では志貴が都古ちゃんを――――何て状況にはなっていない。

 

歌月十夜でレンに手を出した奴だが、他にもヒロイン五人と診療所のお姉さんともやっていたわけで、志貴がロリータコンプレックスというわけではなかったし。

 

 

話が変わるけど、そのロリコンってのは自分の能力や魅力が低いことへの不安から、大人ではない幼女に対象が変わるとか。

本当かどうかは知らん。

 

 

 ともかく、大した問題ではないにしろ、原作とのズレに気を配っておいて損はない。

 

だが本当に大した事ではないので、別段、急ぐわけでもなくゆっくり向かっているわけである。

志貴の身がどうこうなるわけでもないしな。

 

 それは置いといて、さっきからの疑問が一つ。

 

 

「なあ、この道って有間に行くのと違くないか?」

 

 

 近道であるにしろ、九十度くらい本来の道から逸れているわけで。

 と、琥珀が“何を言ってるんですか?”とでも言いたげにこちらを向いた。

 

 

「いや、だって今から志貴の所に行くんだろ?」

 

「違いますよ、夕飯の材料を買うだけですって」

 

「おい――――っ!! 先に言えよ、そう言う事は!!」

 

 

 のこのこついてきちゃったよ、俺!

 

 

「おっかしいな……。お前さっき焦ってなかったっけ? 志貴がゾッコンって事で」

 

「確かにそうですけど、あれは翡翠ちゃんにつられて焦ってただけで、今考えるとかなりオーバーでした。

別に大した問題ではありませんし」

 

「あぁ、お前も同じ考えだったか……」

 

 

 俺が項垂れているのを不思議そうに見る琥珀だが、実際、腹の中では笑っているのかもしれない。

単純に騙されたというか、勘違いしていた俺が悪いんだけど。

 

 

「でも助かりました。アキさんが荷物持ちをして頂けるのは、久しぶりの事ですし」

 

「悪い、こう見えても俺は結構多忙なんだ」

 

 

 来た道を返そうとして、腕を掴まれる。

 

 

「何で帰ろうとするんですか?」

 

「二人で行っても効率悪いだろ。それなら大したことじゃないけど、志貴の方に向かった方が……」

 

 

 そこまで言って、琥珀の視線に遮られる。

気のせいか、それは少し睨んでいる風で。

 

 

「もう、アキさん何か忘れてないですか?

志貴さんのメンタル管理に積極的なのは良いですけど、他の事にも気を配れるようにしないと」

 

「……すまん。何を言いたいのかさっぱりだ」

 

 

 俺の返答に溜息を吐く琥珀。

 真面目だった顔も、呆れ顔に変わっている。

 

 

「……そんな反応されると、まるでこっちが悪いみたいじゃないか」

 

「悪いというか……ふぅ、もういいです」

 

 

 腰に手を回して指をピッと立て、いいですか!? とお説教するようなポーズを取る。

 

 

「志貴さんの住むに必要な情報を整理するので忙しいのもわかりますが、だからって肝心の身の周りの物を準備しないのはダメじゃないですか」

 

「えっと……部屋ならたくさん空いてるし、家具も一通りは揃っているはずだが」

 

「服ですよ、服! 志貴さんはそういう所に無頓着ですし、この町に来て日も浅いのですから、最低限はこちらで用意しておく必要があるじゃないですか。

 いつまでもアキさんの服を貸してるわけにもいかないでしょう?」

 

「も、盲点だったぜ」

 

「中学生じゃないんですから、おかしな口調は止めて下さい」

 

 

 年上のお姉さんらしさ……はあんまりないが、屋敷や住人の体調を管理する役職の威厳を見せつけられ、納得。

 

 

「そうか。確かに志貴の服も揃えるんだったら、荷物持ちは必要だな」

 

「いいえ、それだけではありませんよ。むしろこっちが本題です」

 

 

 そう言うと、またさっきの睨みつけるような表情へと戻る琥珀。

 

 

「アキさん。よーく考えて下さい。服を用意してあげるのは志貴さんだけでいいんですか?」

 

「そういえばお前、私服って持ってたっけ? 見た限りでは夏も冬もその和服だよな?」

 

 

 体温調節とか大丈夫なのか、とは聞かない。

どうせ生地が違いますって返答が返ってくるだけだろう。

 

 

「しかし、まだ十六才だよな……。

年頃の女の子がファッションに興味無しってのも将来を考えると不安になるんだが」

 

「わ、私の事は放っておいて下さい。私が言いたいのは、つまりアキさんの部屋にいた女の子の事です!」

 

「あー、弓塚のことか……」

 

 

 先日の件が一段落した今では、どうにも頭に回す優先順位が低くて忘れがちになる。

 

 

「深く詮索しませんけど、服とか必要なんじゃありませんか?

さっき見た時はアキさんの服を着ていましたし」

 

「そうだな、無茶苦茶必要なものだ。ある意味、志貴の方より大事かも……ってちょっと待て、琥珀」

 

 

 何気に話しているが、弓塚の事は晩御飯の献立並みに普通に会話していい事じゃ無い。

 琥珀を見る。その表情から、疑念だとか恐れといった類のものは見られない。

 

 

「深く詮索しないって……マジで?」

 

「驚くとこですか」

 

「そりゃもう、めがっさ」

 

 

 何だろう、隠しきれなかった俺に非はあるけど、詮索しないって言っても弓塚を匿っているのはプライベート云々の域を超えているわけで、琥珀のこの反応は逆に怖い。

 

例えれば、明らかに悪いことをしたと自分でわかっている子供が、親に見つかっても怒られないため親の心境を疑っている感じ。

 

 

 だが、そんなこっちの心境なんて知らない風に琥珀は言葉を続ける。ジト目で。

 

 

「そんなの今さらですよ。

秋葉様や翡翠ちゃんに見つかった時は保証しませんけど、私は別にどうこう言おうとは思いません」

 

「いや、でもなぁ……琥珀、お前ってもしかして頭悪い」

 

 

 それともそこまで呆れさせるほど、俺が何かをしでかしたか。二重の意味で心配になる。

 

 

「あのですねぇ……はあぁぁぁ」

 

「琥珀の深い溜息に、俺はどうした事かと途方に暮れた」

 

「途方に暮れる前に、もう少し頭を絞って思い出して下さい」

 

「思い出すって言われても、いつの事だよ」

 

「アキさんが四年生頃から、特定の人物とクラスが一緒になるよう九我峰様にお願いしていた時。

アキさんが部活もやってないのに帰りが凄く遅かった時期。消灯時間を過ぎても夜な夜な抜け出して離れの方で訓練している事。

最近は私の作った夕食を全てレンジで温め直している事、などなど……」

 

「うわぁぁ……」

 

 

 俺が秘密にしていたことは、実は全てばれてました。

 

 

「アキさんの不審な行動について、私が言及した事って今まででありますか?」

 

「すいません、無いです」

 

「ですから、今回の件だって今更です。まあ、さすがに四六時中アキさんの部屋にいるのは秋葉様や翡翠ちゃんに秘密にすると言う面ではまずいので、言ってくれれば部屋くらいは手配しますよ」

 

「何ていうか、恩に着るっす」

 

 

 琥珀、恐ろしい子。

 月姫の中で、策士キャラとして扱われていたのもよくわかる。

 

 遠野家を破滅させる計画を考えたのはこの琥珀じゃないけど、確かにこれだけ洞察力に優れていれば考えて実行に移すのも無理じゃない。メルブラの一番新しいやつでも、普通に活躍していた覚えがあるし。

 

 

(……でも、今一つ腑に落ちないな)

 

 

 だって、俺にとっては血の繋がりはないにしても琥珀たちのことは家族のように思ってる。

 

精神は憑依したため実際の人物とは違えど、志貴とは最後の生き残りとなった同じ七夜の血族だし、琥珀、秋葉、翡翠の三人とは幼い頃から八年間一緒に暮らしているのだ。

 

 マンションの隣人のプライバシーはどうでもいいし、どんな事情でも自分には関係ないかもしれない。

 でも俺たちは“家族”なんだ。想いの度合いに差はあっても、ここまで“今更ですから”と言って許容、または無視できるものなのか?

 

 

「アキさん、納得してないんですか?」

 

「え、いや、何と言うかだな……」

 

「もう、だったら一言で分かりやすく言いますから」

 

 

 アキさんでもわかるように、と皮肉を言って、前を向いて考えるように数歩、進む。

 腕を後ろに組んだ姿のまま、琥珀は振り向いた。

 

 

 幼少の頃の記憶は、案外残っているものらしい。

 

 良い思い出ならポジティブな形で現れるし、悪い思い出ならそれはトラウマになって心に残る。

 琥珀の一言から、そんな事を思ったのだ。

 

 

「――――私にとって、アキさんは“正しい”人ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

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今回は琥珀の話。ssを書くときに一番気をつけていることは都合よくしてしまう事なのだが……結構心配。

短い話ですが、読んで頂いている方々に感謝を。