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「やーい、ツインテールもどき。返してほしかったら中途半端な頭を直しなー」

 

「やめてよっ、返して!」

 

「ほいパース」

 

「へへっ、髪型変えろ、ツインの出来そこないめっ」

 

 

 私はクラスの男の子たち数人に苛められていた時期があった。

 小学校三年生くらいの時で、髪を理由に、筆箱やカバンを取られたりした。

 

 今思うと、それは多分、男の子が好きな女の子を苛めたくなるといった、その時期にはよく見られる風景。

 でもその頃の私はそんな事は知らなくて、とても辛かったのを覚えてる。

 

 

 ――――そしてそんな時だった。私が彼に会ったのは。

 

 

「――――贋作、ツインテールもどき、か。あぁ、別にそういうのも悪くない。

確かにソレはツインテールではないからな」

 

 

 特別、親しい友達がいなかった私は、誰が助けてくれるとも思ってなかった。

 

だって私を苛めてたのは、クラスで一番大きいグループのリーダー役にいた男の子だから。

下手に手を出したら自分がクラスで浮いてしまうと、子供でも皆がわかっていた。

 

 

 だから、始めは彼が何を言っているのかわからなくて、

 

 

「だがソレが本物に敵わぬ道理はない。ソレは魅せるのではなく身に付けるもの。

 ならば、その一つを極めるまで」

 

 

 言葉を紡ぎながら、教室の中央へ悠然と進む。

 カバンを投げ捨て、リーダーの子を睨み言う。

 

 

「行くぞガキ大将――――手下の用意は万全か」

 

 

 

 

 ……十秒後、気絶した相手の子たちから筆箱を取って、私に返す彼の姿が。

 

 その後、駆け付けた先生に職員室へ連れていかれたけど、私は放課後、何で助けてくれたか知りたくて彼に話しかけた。

クラスメートだったから、それとなく。

 

 

 ――――それが私、弓塚さつきと遠野シキ君の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

憑依in月姫

第七話

 

 

 

 

 

 

「そんな彼だけど、親しい人にはなぜか“シキ”じゃなくて“アキ”って呼ぶように言ってるんだよね。

曰く昔はそういう名前だったとか」

 

「……認知症?」

 

「違うよっ、ちょっと過去話を思い出してただけ!」

 

 

 時刻は夕暮れ。

 俺は学ランに、弓塚はセーラー服に身を包んで下校中。

 

 帰りが遅いのは部活のせいではなく、学生としての本分、勉強を図書室で頑張っていたからである。

 そもそも部活はもうない。なぜなら……、

 

 

「もうすぐ卒業なんだなぁって、最近よく思うようになったから」

 

「……そういやそうだな」

 

 

 夏の惨劇から、すでに七年が経過していた。

 遠野シキとしての生活もだいぶ慣れて、もうすぐ中学三年も終わりという時期になっている。

 

 

「あれ? あんまり実感ない?」

 

「どうだろ。取りあえず、俺たちは卒業する前に受験があるからな」

 

「うぅ、わかってるよ……あー、もう一週間もないのに過去問が終わってないとか……」

 

 

隣を歩く弓塚は、受験生特有の悩みに苦しみ中。

 

弓塚より多少成績の優れている俺は三年の夏を過ぎてから、こうして弓塚に勉強を教える機会が増えた。

元々、友達と呼べる間柄だったし、弓塚と同じ高校にいけるのならこっちとしても都合が良かったから。

 

 

「けど、俺のおかげで大分良くなったんじゃないか?」

 

「うん、本番でミスしなかったら、ちゃんと合格できると思うんだけど……」

 

 

 見た感じ、プレッシャーに弱そうな弓塚だ。

 

まぁ、それでも大丈夫だろう。

何たって受験する高校は原作で通っている所なわけで、唯一イレギュラーな俺も、弓塚には勉強を教えている。

 

そう考えれば弓塚が落ちる要素など見当たらない。これは物語を知っているからの特権だけどな。

 

 弓塚は深くため息をついた後、そういえば、と言って俺の方へ顔を向ける。

 

 

「今ふと思ったんだけどね、何で私たちって仲良いのかな?」

 

「……頭でも打ったか? さっちん」

 

「さっちんって言わないでよっ。頭も打ってない!」

 

 

 話を逸らされた事にやや不機嫌な弓塚。

 真面目な質問だったのか、今の?

 

 

「自分でもわかってるんだけど、私って普通にクラスの子と喋れても、特定の誰かと仲良くなる事は難しい性格だと思うんだ」

 

 

 広く浅くってあるでしょ、と弓塚は付けたして言う。

 ちょっと自虐的に笑っているのを見て、これは弓塚にとって真面目な話だとわかった。

 

 

「でも、こうやってアキ君とは一緒に勉強するし帰ったりもしてる。それで何でだろうって思ったら……」

 

「いつの間にか、“ガンガン行こうぜ”になってたか? 性格的に」

 

「違うよっ、私の性格は変わってないもん!」

 

 

 それはそれで寂しいと思うが。

 

弓塚はプイっと前を向いたまま、その先を見つめていた。いや、見つめているのは過去かもしれない。

 

 

「苛めていた時とか、倉庫から出られなかった時、勉強がわからなくて困っていた時、私を助けてくれたのは全部アキ君なんだよ……」

 

「だから、仲良くなったって?」

 

「うん。一時期、アキ君は私に気があるのかな〜なんて思ってた」

 

 

 えへへ、と少し笑いながら、恥ずかしそうに弓塚は言う。

 

 

「……そりゃないだろ。だいたい、好きなら熱いパトスを止められずにもう告ってる。

 七年間も好感度上げとか長すぎるしな。そういうのは半年から長くても一年間。早い時には一週間でフラグ成立、二週間もしないうちに“えへへ、キスしちゃった”的な状況まで進む奴だっているんだ。

 そんなゆっくりな恋愛が当てはまるのは、世界中でおそらく幼馴染の奴らだけだろ」

 

「よ、よく喋るね……」

 

 

 完全否定されたのが少しショックだったのか、悔しさに俺をジト目で睨む。

 今日はよく拗ねるな、さっちん。

 

 

「だから思ったんだ。アキ君って別に優しい人ってわけでもないのに、私はよく助けられてる。

私の事、好きでも何でもないのに」

 

「何気に酷いこと言ってる上に、根に持ってるのか……」

 

「友達だから助けてるってわけでもない。だって有彦君や他の友達が困ってても、アキ君はいつも笑ってるもん」

 

 

 だから、何で私にだけ優しくするの? そう弓塚の瞳は訊いている。

 

 

「……自惚れじゃ無いか?」

 

「自惚れじゃないもんっ」

 

 

 はぐらかそうとするが、即座に言い返されてしまう。

 はっきり言ってくる辺り、弓塚自身、結構前から思っていた事らしい。

 

 

(……まぁ、当たっているから仕方ないか)

 

 

 弓塚の言う事は当たっている。

実際、他の奴らを見る目と弓塚を見る目では違うと、俺自身がわかっている。

 

小学校の頃、同じクラスだったので機会を見て俺から弓塚に近づいていったし、困っている時は助けてやれるようにと弓塚を意識している事も多かった。

 

 

(でもそれは、恋心とかそんなのとは全く別の――――)

 

 

 ――――別の、ただの保険によるものでしかない。

 

 

夏の惨劇が終わってから八年間、考える事は常に未来のことだった。

 

 志貴がいないという状況。

ちゃんと帰ってくると思うが、本来ないそのズレは、俺にとって不安の塊だ。

 

 だから少しでも有利になるよう、この七年間を過ごしてきて……弓塚への態度もその一つ。

 吸血鬼に襲われて、死徒となり主人公の前に立ちはだかる、遠野家ルートの中ボスポジションにいる存在。

 

 

そんな脅威を持つ弓塚だからこそ、俺は仲良く接してきた。

連続殺人事件がこの三咲町で起こった時、絶対に襲われないように。

 

仲が良ければ、弓塚に外出禁止だと強く言ったり、無理やりにでも遠野の屋敷に泊まらせる事も不可能じゃ無い。

 

 

 

 

そう考えたから、俺は弓塚と友達になったのだ。

 

 

「…………」

 

「む、だんまり?」

 

「違う、黙秘権だ」

 

「むぅぅ……しょうがないなぁ」

 

 

 弓塚は唸って見せるが、俺が答えないのがわかると早々に諦める。

もっとも、始めから納得のいく答えは聞けないと思っていたのかもしれん。

 

 

「考えすぎなんだよ、さっちんは。むしろその分の思考を勉強に持ってくべきだな」

 

「そうやって誤魔化して。……いいもん、高校生になったらまた聞くからっ」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

 

 別れ道につく。

坂道を上る手前で、俺たちは挨拶を交わす。

 

 

「高校受験、一緒に頑張ろうね! ばいばいっ」

 

 

 手を振りながら駆けてく弓塚。背中がだんだんと小さくなって……見えなくなる。

 帰り際に見た横顔が、記憶にあるイベント絵と違って溜息ながらも笑っていたのが、深く印象に残っていた。

 

 

 

 

「アキく――――ん!」

 

「……ん?」

 

 

 と、自身の気持ちを綺麗にまとめ、いざ帰ろうと思ってたところに何故か弓塚が戻ってきた。

 だが近くには来ないで、離れた場所から叫んで声を届かせる。

 

 

「困った事があったら私が助けるからねっ! あと、さっちんって呼ぶの禁止っ!」

 

 

 そう言って、また向こうへと走って行った。

 

 

(なるほど……言いたい事はそれだったか)

 

 

 一拍置いて、納得する。

 

確かに向こうから見れば助けてられてばかりだから、お礼をしたい気持ちもわかるが……。

恥ずかしいのか、回りくどいキャラだと思う。

 

 

「今度、金でも借りるか」

 

 

 遠野家長男は万年金欠。それは原作と変わらない。

 それで弓塚の心が軽くなるなら、そういうのもありだろう。……返せるかは、わからないが。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

「――――ただいま」

 

「お帰りなさいませ、アキ様」

 

 

 屋敷の前にいる翡翠に挨拶をする。

格好は原作と変わらずメイド服。

 

こうやって健気に、毎日主人が帰ってくるのを門の前で待っている……はずではなく、

 

 

「今日はどうだった?」

 

「……ダメです。手紙も来ませんでした」

 

「そうか」

 

 

 翡翠と一緒になって肩を落とす。

 こうやって翡翠が門の前で立っているのは、全て、志貴のためである。

 

 

「待つ方ってのは、やっぱ辛いな」

 

「はい……」

 

 

 二か月前、鳥らしき使い魔を経由して志貴から手紙が届けられた。

 内容はシンプルに、もうすぐ帰るとの事。

 

 それから、翡翠は毎日門の前にいるようになった。

志貴がいつ屋敷に来ても困らないための配慮だが、本当は待ちきれないといった心情だろう。

 

 待ちきれないのは俺も同じで、こうして帰って来ては開口一番に志貴の事を尋ねるが、相変わらず帰ってこない。

 

 

「まあ、気長に待つか……。秋葉と琥珀は?」

 

「秋葉様は会合があり、姉さんもその付き添いで出かけています」

 

「じゃあ、今夜は翡翠と二人だけか」

 

 

 ちなみについ最近まで住んでいた親戚たちは、原作同様、秋葉によって追い出された。

 志貴が住みやすいようにとの配慮がその理由だ。

 

 予想通りブラコンに育ってくれた秋葉に、俺が以前、九我峰斗波に言った“志貴が帰ってきたら俺のポジションである遠野シキと入れ替わる”話をすでに持ちかけてある。

 

そのため七夜志貴は遠野志貴へ、俺は遠野シキをやめて七夜アキハに戻り琥珀や翡翠と同じポジションになる事が、俺たちの間で決まっていた。

 

 

 よって仕事の補佐をしていた俺はともかく、行方不明になっていた挙句、帰ってきたら遠野家長男になるであろう志貴。

 その志貴の事を良く思わない親戚も多いため、手紙が届き俺との話が決まった後、秋葉がブラコンパワー全開で事態を推し進めたのである。

 

 

「去り際、斗波の奴が苦笑してたの、すっげえ記憶に残ってるんだよな。

 ……あのおっさんがいないのはやっぱ寂しいか」

 

 

 変態だったが、結構、気が合っていたのだ。

 遠いけど近い趣味の持ち主、だったからかもしれん。

 

 

「申し訳ございません。

私は九我峰様よりつまらない人間ですので、満足にお相手を勤められない事をここにお詫び申し上げます」

 

「……そこまで言ってないぞ? それと敬語はなれないからやめてくれ」

 

「…………まぁ、確かに敬語はおかしいよね」

 

「メイドだけどな、お前」

 

 

 翡翠、ノーマルモード。

 要は友人感覚。幼少期からトラウマなく育ってきたので、普通の少女として現在に至る。

 

琥珀の事はどこまで知っているかわからないが、琥珀と翡翠の入れ替わりイベントがなかったため、原作程の無口無表情キャラではなくなった。

 

 

(夏の惨劇で書き忘れた事が、ご都合主義に繋がったか……)

 

 

 性格はfateの桜を想像すれば分かりやすいと思う。Hollowのメイド桜まで想像できれば完璧だ。

 

 

「料理は姉さんのだから、安心して食べてね。私は姉さんの部屋を掃除してるから」

 

「できたメイド兼妹だな……」

 

 

 寝るまでずっと掃除をしてるのだろうか?

 

翡翠の私生活を覗きたい衝動にたびたび駆られるが、どこぞのアンバーが怖いのでやめておく。

まだそのアンバーの部屋を覗いた方が安全だ。変わらぬ姉妹愛、恐るべし。

 

 

「そういえば翡翠の奴、琥珀の部屋を掃除するって言ってたよな……。

 …………………パソコン使えないぞ、おい」

 

 

 俺の部屋にはパソコンを置く権利も、買うだけの金もない。

そこら辺は原作の志貴と同じで、買うにしても秋葉の許可がいちいち必要であり、納得させるだけの理由もなければいけない。

 

 だがネットさえ繋げば、何もソフトが無かろうとこちらの好き勝手にできる。

そのため、前に適当な理由を並べ申請してみた事があったが、

 

 

「一日で撤去されたっけな」

 

 

 朝起きたら部屋からパソコンがすっかり消えていた。

秋葉曰く“あんな廃人養成の機械はいりません”とか。仕事で使う場合は見逃してくれるのにな。

 

なのでこの年……戸籍は中学三年だが、中身はとっくに成人している俺にとって、パソコンのない生活はストレスとかその他色々と溜まってしまい仕方がない。

 

 撤去されたそれは琥珀の部屋に置かれていたので、それから頻繁に出入りをしている。

だが、それでも今日みたいに翡翠が部屋にいたりすると、堂々と部屋に入っていくのは難しい。

 

 

「……今日は真面目に励んでるか、仕方ない」

 

 

 そうと決まれば、残った時間でやる事はただ一つ。

受験勉強……は弓塚が頑張ればいい。俺はもちろん、戦闘訓練しかあり得ない。

 

 四季を逃がし、志貴がいなくなってから八年間。

 BAD ENDにならないよう、多少なりとも志貴をフォローできる力を求めてきた。

 

 俺の役割はあくまで志貴のフォロー。間違っても代わりに戦う事じゃないし、そんな事になったって勝ち目はない。

 

 

志貴の所在が不明だった時は焦ったが、今は違う。

明確な日付は書かれていなくとも、帰ってくる事がわかっている。

 

「本編が始まるまで、あと一年と少し……」

 

 

 それだけあれば、さすがに志貴も帰ってきているに違いない。

 七つ夜、と書かれたナイフを取り出し、部屋から庭へと跳び下りる。

 

素足のまま森へと駆け、そこで日課の訓練を始めた。

夕飯は電子レンジで温め直そう。琥珀には悪いが、これも日課となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 それが、中学三年の受験一週間前の出来事である。

 

 この二カ月後の無事に卒業式が終わった春休み、

 

予想は外れ、吸血鬼の噂が流れだす猟奇事件が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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