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「――――っ!!」

 

 

 危険だと、第六感に優れた七夜の身体が震え出す。

 

目を見開き、足に力を。

相手の動き一つ一つを見逃さないよう、集中力を極限まで高め……、

 

 

「四季? ……一体どうした――――」

 

「カアアアアアアアアアアァァッ――――!!」

 

 

 志貴が声を掛けた瞬間、四季が奇声を発して駆け出した。

 志貴を押しのけ、秋葉の元へ。目は血走り、腕は鋭く手刀を形作る。

 

 

「キ、アキハアアアアァァッ――――!!」

 

「や、やめろ、四季っ!?」

 

 

 倒れながらも一瞬で態勢を立て直し、四季を上回る速度で秋葉の前に回り込む。

 

さすがは七夜当主の後継ぎ息子。

意識はしてないだろうが、その身のこなしは素晴らしい。

 

 

 だけど、殺しにくる友達の止め方はわからない。

 

 志貴はここで四季に殺される。

 殺されて遠野家の歯車が狂いだした時、月姫の物語は動き出す。

 

 

 そして……自分はそれが嫌だから、あれからずっと、木の上(ここ)にいた!

 

 

「――――させるかあああああぁ!!」

 

 

 隠れていた木から飛び出すとともに、浅神の魔眼を全身全霊で開放する。

 

 目的は四季と槙久の抹殺に加えて、志貴と秋葉の生存。

 

 

 叫んで自らを震え立たせながら、鬼と化した四季に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

憑依in月姫

第五話

 

                                                                           

 

 

 

 

 四季が突出す。志貴が庇う。

本来ならここで終わっていた惨劇を、俺は力ずくに捻じ曲げる。

 

 魔眼から発生する歪曲の力を、四季の手刀に集中。

捻じ切る事は到底できない。だが軌道を逸らすぐらいの効果はあり、

 

 

「――ナッ!?」

 

 

 心臓ではなく、抉られたのは志貴の左肩辺り。

 志貴には悪いが、四季の手が肩に刺さっている今がチャンス。

 

 用意していた果物ナイフを、一刀の下に四季の頭に刺して殺す!

 

 

「終わりだっ!」

 

「――ガァ!!」

 

 

 脳天に一突き。

志貴と秋葉が放心している手前、事態を収めた。

 

四季がうつ伏せに倒れる。

 三人とはやや離れた位置に着地した俺は、一息ついて、志貴たちより先に殺したであろう四季の方に目を向ける。

 

 

 ナイフは勢いもあり、根本深くまで突き刺さった。銃弾で頭を打ち抜くのと同じ、おそらく即死だろう。

 ……人を初めて殺してしまったわけだが、今は何も考えまい。

 

 

(それよりも……)

 

 

 そう、俺の罪悪感の所在は置いといて、今は志貴と秋葉の二人が重要だ。

 

それに後ろに倒れた死体も忘れちゃいけない。

 一撃で暴走した四季を沈められたのはいいが、こいつには“不死”の能力があるため完全に殺したわけじゃない。

 

もともと、こんなちゃちなナイフで命を絶ち切る事は不可能なわけだし……それに、志貴の怪我も放っておけないくらいに酷い。ボケっとしている暇はどこにもにないぞと、自分自身に発破をかける。

 

 

「おい、志貴。大丈夫か?」

 

「……ア、アキ?」

 

「そうだよ。俺の事ちゃんとわかるか?」

 

「うん……アキの事は、その、わかるけど……」

 

 

 やはりというか、状況が掴めないらしい。

頭の回転が追い付かないのは仕方がない。腕の痛みを訴えないのを見ると、多分、麻痺しているのだろう。

 

 

(……目の前で友達が死んだんだから、当たり前か)

 

 

 泣き叫ばないのだからマシな方か。

この頃は弱々しい顔をしている秋葉も、現状は志貴の服を掴んでいるだけで反応は何も起こしていない。

 

 

「志貴、頭の中ごちゃごちゃかもしれないが、少し向こうの方までついて来てくれないか?

いつまでもここにいるわけにはいかないんだ」

 

「え、でも四季が……」

 

「それも含めて話すよ。とにかく二人一緒に来てくれると助かる」

 

 

 不安を軽減させるよう、努めて優しく声をかける。

 

琥珀に事件が起きたことを知らせるため、そして槙久をここに連れてこさせるためには、屋敷の警報装置を鳴らさなければいけない。

 この広場のもう少し奥に行った所へ移動しなければ、それを実行する事はできないのだ。

 

 

「うん、わかった」

 

「おう、サンキュー。そんじゃついて来てくれ」

 

 

 志貴が頷いたのを見て、頭の中に描いてある計画を次の段階に移させる。

 これより先、しばらくして蘇った四季を槙久に殺させ、こちらはその隙を突く。その一点に集中する。

 

 

 

 

 ――――そうして背を向けた瞬間、

 

 

「――――アキ、危ない!!」

 

 

 そいつはチャンスとばかりに襲ってきた。

 

 

「ハアアアアアアアアァ――――!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 歪な頭を胴体にぶら下げたまま、今さっき殺したはずのソイツが右手に血の刃を固まらせながら、

 

 

「シネエエエエエエエエ――――!!!」

 

 

 狂気に目を光らせて、俺の首元を突き刺してくる。

 

 

(まが)れえええええええ――――!!」

 

「アキっ!!」

 

 

 志貴の悲鳴。

 とっさに魔眼を発動させ、両腕も交差させ襲ってくる刃を防御する。

 

だが回避なんて不可能。

刃は少しそれただけで、俺の両腕を貫通し、四季の血でできたソレは鎖骨まで到達した。

 

 

「――――っ!!」

 

 

 痛みで意識が飛びそうになる。

 その前に組みついてきた四季の腹に蹴りを入れ、弱い力ながらも突き飛ばす。

 

 

「志貴、秋葉をつれてこっちへ来い!!」

 

 

 両腕はもう使えない。

 泣きそうになるのを堪え、まだ無事な二人に向かって叫ぶ。もう先ほどまであった余裕は全くない。

 

 

(完全に、油断してたっ!)

 

 

 初めて、人の命を奪った感触。

それに溺れてか、不死の能力と言えど後数分は動くまで時間がかかるだろうなんて判断していた。

 

 

 ――――甘かった。

 

 

(ちっくしょう……!)

 

 秋葉が授けられた能力が対象の熱を奪う“檻髪”。

それに対して、四季が授けられた能力は“不死”。

 

 秋葉の檻髪に比べ、四季の不死はランクとしてはそう高くない。

不死と言っても不死身になるわけではなく、ただ死ににくくなるだけ。

 

身体が欠けた場合にそれを再生するのではなく、それ無しでも生きられるよう身体を作り変える。

それが四季に与えられた能力。

 

 

 そういった情報は事前に知っていた。

だから、容赦なくナイフを突きさせたのだし、警戒も怠ったつもりはないのだが――――

 

 

(まさか、復帰するのがこんなに早いなんて思わないだろ!?)

 

 

 志貴の元に駆け寄る。

身体が動かないのか、またはどうしていいかわからないのか、志貴は中々動こうとはしない。

 

腕が使えるならばビンタで活の一つでも入れてやりたいが、生憎と腕は肩からぶら下がったまま。

動かそうとすると血が噴き出してメチャクチャ痛い。

 

 

「急げ、志貴っ!」

 

「お、俺……」

 

「馬鹿、このままだとあいつに殺させるぞ! 俺もお前も、秋葉もっ!!」

 

「――――っ!」

 

「だから走れ、そんでもってしっかりしろ!」

 

 

 お前は強いんだからっ! そう懇願するように叫ぶ。

 

 

 志貴は俺なんかよりずっと強い。

 

七夜の里で基礎訓練は受けている。

その上で俺は里の中で劣っていて、反対に志貴は優秀だったのだ。普通の子供とはわけが違う。

 

 今は心がついて来ていないだけ。

少しでも動いてくれれば、後は戦闘訓練を叩きこまれた身体が勝手に反応してくれる。

 

 

 志貴の顔が引き締まる。

額から流れる汗は隠せないが、殺されるという言葉に反応してか、秋葉の手を掴んでぎゅっと握る。

 

 

「行くぞ、全力で走れっ!」

 

「うん!」

 

 

 秋葉を連れているから全力は無理。だが、それくらいで走らなければ命が危ない。

 俺が先導して駆けるのもつかの間、足を止めて振り向く。

 

 

「アキ!?」

 

「先に行け、早く!」

 

 

 言って、右に飛ぶ。

 

 一秒遅れて、そこに血の刃が数本突き刺さる。直径五十cmはある血の結晶。

 見上げた場所には血眼で口元を釣り上げた四季の姿が。

 

 

「シャアアアアアア――!!」

 

「くそっ!」

 

 

 その両手には血で覆われた刃が小さいながらも計十本。

さながらドラクエでいう“鉄の爪”。あれで抉られたら、多分死ねる。

 

 

「この野郎っ!」

 

 

 避けてから体制を立て直し、蹴りを放つ。

 が、そんな遅いモーションでは当然当たらない。

 

 

(腕が使えないのは……相当ヤバいっ)

 

 

 腕が使えれば、避けながらでも地に手を置いたりしてバランスを取り、避けると同時に反撃ができる。

だが腕がやられている今、避けるか蹴るか、そのどちらかしか動けない。

 

 

 奇声を発しながら、四季は血をばら撒く。

 それらは刃となり周囲に突き刺さる。こいつは、距離を稼がなければ避けられない。

 

 そして距離を置いた瞬間、四季は俺から目を離し、二人の元に疾走する。

 

 

「秋葉を守れ、志貴っ!!」

 

「うん!」

 

 

 狂った友達を前に、志貴は秋葉を抱えてどうにか回避行動を取る。

 腕力がないにも関わらず、そのまま続く四季の二撃、三撃を秋葉を抱えたまま避けきったのはさすがとしか言いようがない。

 

 

「お前の相手はこの俺だっ!!」

 

「――ガッ」

 

 

 隙を見て背中に放つドロップキック。

 

不死の能力を持つ四季を殺すことは、俺たちでは不可能。

ならば、少しでも早くクリア条件を満たすまで。

 

 

「志貴、秋葉、このすぐ先にカメラが一台設置されてるから、そいつをぶっ壊してこい!」

 

 

 防犯カメラと言いながら、そのうち一つは隠れもしないで置かれている。

まあ、その近くには数十台が隠れて置いてあるから、質の悪いダミー役なのだろう。

 

それでも作動しているため、壊せば屋敷に警報がなるはずだ。

 

 

「俺は蹴りでしか壊せないからな。それじゃあ効率が悪すぎる」

 

「でも、それじゃアキが」

 

「俺は――――!」

 

 

 右足を前に出す。

 瞬間、ズブリといった嫌な音とともに激痛が電流のように突き抜ける。

 

 

「俺はここで、こいつを止めてるからっ!!」

 

 

 四季の突き出した左手の刃を、俺の右足に突き刺す事で防御する。

 これで右足はほぼ使えない、……が、

 

 

「わ、わかった!」

 

 

 秋葉を連れて駆け出す志貴。志貴の足ならおそらく壊すまで三十秒もかかりはしない。

 後は槙久がくるまで、何とか持ち堪えられればいい。

 

 四季はいずれ駆け付けた槙久に殺される。

原作で四季が生き延びた理由は、志貴を殺した時にその命を奪っていたから。

 

 

(つまり俺を含め誰も殺されなければ、こいつが生き返る事はないっ)

 

 

「こんの、くそガキがっ!!」

 

 

 右足に最後の力を入れ、思いっきり地面に叩きつける。

 左手が刺さったままの四季は俺の足の動きにつられ、そのまま傾くようにして地にひれ伏す。

 

奴の左手を踏みつぶし動きを封じ、すぐさま魔眼を解放した。

 

 

(まが)れえええええぇ――――!!」

 

 

 対象との距離は五十センチもない。

回転軸を四季の左手に作り、そのまま(まげ)る!

 

 

「ギ、ガアアッ!?」

 

 

 ゆっくりと、左腕があり得ない方に曲がっていく。ミシリミシリと骨が軋む音。

 どちらか片腕でも潰せれば――――、

 

 

「――――おわっ!」

 

 

 瞬間、四季の右腕が顔を掠める。

 回避行動を取ったと同時、倒れていた四季も大きく後ろに跳んだ。

 

 

「くそっ、顔を近づけすぎた」

 

「ハア……ハア」

 

 

 自らの左腕を掴んで忌々しそうにこちらを睨む四季。

見た限りでは多少なりとも腕にダメージを与えたらしい。おそらくすぐには使えまい。

 

 

 そこからしばらく、互いに硬直する。

 

獣のように血走った眼をしているくせに、四季は左腕を押えたまま、跳びかかっては来ない。

 

獣なりに魔眼の力を警戒しているのかしらないが、そろそろこっちは身体の怪我、体力、魔力の消耗と全てがレッドゾーンに達する手前。

 

 

(来ない……のか?)

 

 

 目の前の四季が一向に動こうとはしない。

狙いを澄ましている眼から、心を読み取る術なんて俺が持っているはずもなく、

 

 

 

 

「――――アキ! 壊してきたよっ!」

 

「ハアアアアアアアア――――!!!」

 

「しまったっ!?」

 

 

 俺を襲わずに蓄えていた力の全てを、四季は秋葉を殺したい衝動に委ね、

 

 

「アキハアアアアアアアアアアア――――!!!」

 

 

 一直線に俺を跳び越え秋葉に向かう。

 その先には驚き恐怖し、それでも秋葉を庇おうとする志貴の姿。

 

 全く、最初襲われた構図と同じだった。

 

 

「うおおおおおお――――!!」

 

 

 残った左足に渾身の力を入れ、四季にさせまいと後を追う。

 

 志貴を殺させては絶対に駄目だ。それでは原作と変わらない。

 今日、この瞬間を変えなければ、月姫の物語は逸らせない!

 

 

(まが)りやがれえええええええええぇ!!」

 

 

 四季の右足に回転軸を作り、力を解放させながら跳ぶ。

 歪曲により四季の速度を微かに下がらせ、その瞬間に俺が前へ。

 

 

 

 

 一瞬ののち、森に鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 

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