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「……はぁ」

 

 

 食パンの端を千切って撒く。それに群がる鳩ポッポ。

 

 

「……どうしてこうなった?」

 

 

 漫画喫茶に向かう予定だったが、まだ日は沈むどころかようやく頭の上を通過したばかり。

早く向かったところで、漫画やネットで時間を潰す気分じゃない。

 

 そうして近くの公園へと足の向きを変えてベンチに腰を下ろすも、コンビニで買った昼食を食べる気は起きず、こうやってばら撒いている次第である。

 

 

「世界が不安定で、憑依が抑止力によって……おまけにいらない警告とか」

 

 

 余計なお世話だと蹴り飛ばしたいところだが、生憎と後回しにできない問題だ。

 

 この世界の在り方、自身の現状を認識した、させられた。

 だったらどう動くか……それをもう一度考えなければいけない。

 

 

 原作の世界に憑依したと思っていた昨日までと、原作をかたどった不安定な並行世界だと知った今日では、精神的な余裕の度合いがかなり違う。

 

 八年前の事件のような理不尽な“ズレ”もあるのだ。

 

詰めの甘い考えは命取り。

今まで以上に頭を回転させなきゃいけないのだが……

 

 

(……何をどうしろと?)

 

 

 ぶっちゃけ、手に余りすぎて困っている。

 世界――――そんな用語が出てきた時点でさじ投げますよ、普通。

 

 

 抑止力で呼ばれたor抑止力すら不安定の二者択一らしいけど、そのどちらにしたって迷惑すぎる話だ。

 

呼ばれた場合は命懸けの飛んでもないイベントに必然的に突っ込まなきゃならなくなるし、不安定な世界なら直接身に降りかからないとしても原作以上に危険な事に変わりない。しかも対処なんて不可能。

 

 ……もっとこう、普通の世界に呼んでくれてもいいんじゃないかね。

 

琥珀を助けたり本編生き残れたりしているため運がないわけじゃないんだが……どうも根本的なところで運が悪い。

 

 

 加えて、この身体だけでなく魂まで乗っ取っているときた。

 そのおかげで魔術回路も使えているのだけど、自分のせいで身体どころか魂まで支配されてると知っては、もうこの身体の本来の持ち主に罪悪感がグンバツである。

 

 琥珀や弓塚にしたって、今さら何をどうする事もできはしない。

 特に弓塚に至っては肝心の問題が未解決のまま。たが、それに振り回されているのも事実。

 

 

 

 

……まぁ、これらの悩みは全て気持ちの持ち様だ。

世界の事も、この身体の事も、周りに流されている現状も気持ち一つで元に戻れる。

 

 蒼崎橙子の言葉で、周囲の状態が明確に形を帯びただけ。

 

 

 戸惑っていたって意味はない。

 さっさとこの胸の内にある重く、泥のような感情を吐き出してしまえば問題ない。

 

 

「…………そうは言っても簡単には割り切れないよなぁ、人間」

 

 

 今日何度目かわからない溜息を吐く。

 そもそも、機械的な感情が持てるのなら苦労しない。それができないからこそ、リアルタイムで項垂れているのだ。

 

 平日のため、公園は割と静かで考え込むには過ごしやすい。

 静かな分、徹底的に落ち込めるけどな。多分、もう少し更けていたらリストラされたおじさんに見えたに違いない。いや、おばさんか……はは、鬱だ。

 

 

 身体の力が抜けて、座っているのも億劫でベンチに横になった。

 

 

 雲一つない快晴が今は恨めしい。

 

ぶらりと下がった片手に鳩が群がる。そういえば、まだ手にサンドイッチを握ったままだったっけ。

 首を動かすと、ベンチに上ってレジ袋に首を突っ込む鳩までいる始末。

 

 

(こいつら、どんだけ警戒心が薄いんだよ……)

 

 

 いっそ、歪曲の魔眼と七夜の体術で数匹くらいチキンに変えてやろうか、八つ当たりとして……と思ったが、面倒なので止めた。

 

 頭の中ではぐるぐると巡る悩みの種。

傍らでは我よ我よとパンついばみ、争いを始めた平和の象徴。もうやだこの世界。

 

 

 

 

「――――あの」

 

 

 影で日差しが遮られる。

 一斉に鳩が飛び立つと同時に、あっ、と可愛らしく驚いた声が聞こえた。

 

 

「…………藤乃、さん?」

 

「お久しぶりです。えっと、大丈夫ですか?」

 

 

 礼園女学院の制服姿で先日会った雰囲気そのまま。

鳩まみれになっていたため襲われているとでも勘違いしたのか、少し表情を曇らせた浅上藤乃が視界に入った。

 

 

 

 

 ……平日だから学校はどうしたとか、藤乃の方から話しかけて来るのは意外だなとか。

 

 色々と思う事はあったけど、これには参った。

 

 

 世界はいじわるだ。

 

 

 藤乃だって、救えるものなら救ってやりたいと考えていた。

 己の力量を知れ、感情に流されるな……そう言われて悩んでいる最中に、何も本人と会わす事はないだろう。

 

 琥珀や弓塚でない分、マシだけどさ。

 

 

 

 

 

憑依in月姫no外伝

第八話

 

 

 

 

 

<琥珀side

 

 

 

「アキさん、遅いですね」

 

「いやいや、別にいつも通りじゃない?」

 

 

 探索の方は目途がつき、今日は魔術師に直接会いに行くと言って出て行きました。

 

 三ヶ月ほどの滞在予定にも関わらず、十日かからないで相手方の住処を特定できた事は喜ばしい事ですが……。

 

 アキさんとの約束で、手伝いは探索まで。

 それも終えたため、今はホテルでさっちゃんと留守番です。

 

 

「心配する気持ちもわかるけど……もうちょっと信じてあげようよ、アキ君の事」

 

 

 穏やかに言うさっちゃんが、羨ましく思えます。

 

 本来なら、これは私がさっちゃんに言うセリフではないでしょうか。アキさんとの付き合いは私の方が長いわけですし。

 

 

 一月前までは、私もそう言えたでしょう。

 アキさんが正しいと信じて疑わなかった、あの頃であれば。

 

 ……まぁ、アキさんの間違えたら死ぬような無茶を傍で見たり、さっちゃんと友達になったのを通して段々と見方が変わってきましたけど。

 

 

 ほんと、ここ一カ月の間に色々な事がありました。

 

 

「――――って言うか、アキ君と琥珀ちゃんで探索してた時はもっと遅かったじゃん。

 一昨日とか帰って来たの深夜だったし」

 

「あ、あはっ。あの時はつい探索に熱が入っちゃって……本当よ?」

 

「二人でいかがわしいお店とか行ってない?」

 

「い、行ってないって!」

 

 

 ジト目で睨んでくるさっちゃんに、慌てて手を振りながら誤解を訴えます。

 

想像して少し紅くなるのが自分でもわかる。

 そもそも、アキさんはその手の方面は何となく避けてる感じがあるので、そんな展開はあり得ませんけど。

 

 

「最近は琥珀ちゃんの機嫌がいいから、何かあったのかな〜と思ってさ」

 

「何にもない。抜け駆けなんてこれっぽっちもしてませんよ」

 

 

 あ、でも手は繋ぎましたね。

 ……許容範囲という事にしておきましょう。

 

 私の答えに、にやりと笑うさっちゃん。何か不気味です。

 

 

「えへへ、やっぱり琥珀ちゃんもアキ君に対して自覚、あったんだ」

 

「え?」

 

「抜け駆けって言葉。好きな人相手に使う言葉だけど、今まで“アキ君に助けてもらった”って事しか言ってないでしょ?

お互い、気持ちの方は口に出さないで」

 

 

 わかってたけどやっぱり言葉で確認しておきたいじゃん、と満面の笑み。

 

 

「やっと琥珀ちゃんから好きって言動とれた、やったね」

 

「さ、さっちゃん! その、あんまり言葉に出すのは……」

 

 

 言われてみれば、さっちゃんも好意は隠していませんけど、面と向かって聞いた事はありませんね。

 ……でも、自覚しているとはいえ恥ずかしいですよ、それは。

 

 “正しい人”だからこのような自覚が生まれるのか、それとも、それは違って“アキさん”だからそう想うのか。

 昔とは違う感情に戸惑ってもいますから、まだ言葉には出せませんし。

 

 

「うん、普通の友達とかだったら気まずいだろうけど、私と琥珀ちゃんならどれだけ語っても大丈夫っ!

……で、何で携帯取り出してるの?」

 

「アキさんの位置を確認しようと思って」

 

 

 携帯にはGPS機能が付いていますから。

 これ見て帰ってくるのを待ち続けましょう。決して、さっちゃんが怖いわけじゃありませんよ?

 

 

「むぅ、恋バナで盛り上がろうと思ってたのに」

 

「その話に入ると、一方的に苛められそうな気がするんだけど……」

 

 

 普通の学生さんをやっていたさっちゃんに対して、私は屋敷暮らしだったわけで。

 ……私が主導権を握るイメージが全く沸きませんね。

 

 

「あれ、それ動いてない?」

 

 

 気付き、携帯を指さしたさっちゃんにつられて目線を向ける。

 

画面地図上の×印が移動している。

 

さっきまで留まっていた場所が魔術師の住処だとすると、もう交渉は終わったという事でしょうか?

進む方角も私たちのいるホテルですし、おそらくそうでしょう。

 

 

「迎えに行ってくるね」

 

「アキ君の心配? それとも恋バナ回避?」

 

「どっちも」

 

 

 薄い上着を羽織って、携帯だけ持っていく。

 

 

「いいなぁ、アキ君。琥珀ちゃんにそんなに想われてて。

 ちょっぴり嫉妬しちゃうかも」

 

「…………」

 

 

 さっちゃんの呟き。

 それがあんまりにも自然な風だったから、気恥かしさが込み上げてきました。

 

 こんな気持ちも、悪くないけれど。

 

 

「いってらっしゃ〜い。あ、でも朝帰りは厳しいかも。反応できないし」

 

「すぐに帰ってくるって、もう!」

 

 

 さっちゃんの冗談? に頬を膨らまして怒ってみせる。

 

友達と笑い合うのも、素敵なことです。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「あれ? 方向が変わりましたね」

 

 

 一階のロビーまで降りてもう一度携帯を見ると、アキさんは何やらどこかのお店に入った様子。

 何か必要なものありましたっけ? と考えるも思い付かず、そうしているうちに買い物は済ました模様で、また移動を開始しました。

 

 しかし、その行先は帰路につくとは考えにくい方角で。

 

 

「……どうしましょう」

 

 

 迎えにいくつもりでしたが、アキさんの用事はまだ終わってないのかもしれません。

 隠れて色々やる人ですから、私が行ったら邪魔になる可能性もある。口に出す事はしないでしょうけど、私としてもそれは嫌ですし……。

 

 

「取りあえず、行きましょうか」

 

 

 帰ってくるまでさっちゃんとお喋りしてるのも楽しいですけど、アキさんとの散歩も楽しいですし。

 隣を歩く時の私はやっぱり浮かれてます。ごめんね、さっちゃん。

 

 

 ホテルを出ると、晴れ晴れとした日差しに照らされます。

 散歩日和、またゆっくり花見をしたくなるような気候ですね。

 

 

 携帯の画面を確認しながら、慣れてきた道を歩く。

 

迎えに行って、アキさんの顔色で判断しましょう。

 迷惑かどうかくらいなら、軽く見分けられますから。

 

 

 動く×印と道を合わせる。

 そうして行きついた先は公園でした。それなりに大きい、緑も多い自然公園。

 

 

「……一体、何の用でしょう?」

 

 

 はてさて、アキさんの目的はともかくとして、まずは肝心の本人を見つけなければいけません。

 

 平日でも街中は仕事で行き交う人が多くいますが、この場所では大分静かになりますね。

 見かけるのは、赤ちゃんを連れた母親たちが傍らで談笑している程度。

 

 

 アキさんの髪の色は見分けやすいのでそれを目印に……はい、いました。発見です。

 

 

「あれ、もう一人?」

 

 

 ベンチに腰掛けているアキさんの隣。

 なぜか、浅上藤乃さんがそこにいました。

 

 

 

 

「…………浮気?」

 

 

 って、違いますね。いつの間に本妻気取りですか、私は。

 しかも浅上さんはアキさんの従妹。そういう関係になるわけありません。

 

 ……なりませんよね?

 

 

「それはそうとして」

 

 

 魔術師に会いに行くといったのは嘘で、実は浅上さんに会いにいった。

 私の早とちりかもしれませんけど、今までこういった嘘はなかったので、本当なら少しショックかもしれません。

 

 今は私の心情よりも、アキさんの表情の方が気になりますけど。

 

 

「……近づいてみましょうか」

 

 

 朝と比べて、アキさんの表情が重い。

 表面上は普段と変わらないよう取り繕っていますが、明らかに暗い雰囲気が見て取れます。

 

 公園の周囲は木々で覆われた林のようになっていたので、視界に入らないよう裏から回り込んで二人にそっと近づく。

 

 

 私が聞いてはいけない話かもしれない。

 でも、あの表情が気にかかって……上の空でない限りは、普段のアキさんなら隠れていても私に気付くと心の中で言い訳して、足音を忍ばせる。

 

 

 ……簡単に近付けちゃいました。

 

 

(ど、どうしたんでしょう)          

 

 

 ただの学生である浅上さんはともかく、アキさんが気付かないのは異常。

 

 隠れてないで、傍に駆け寄って診察した方がいいでしょうか。

 そう思いながらも、二人の話が気になって足を動かさない私がいる。息を殺して、聞き耳を立てている私がいる。

 

 

 気になるのは家族としてか、女としてか。

 

 

「――――検査で、毎月この日はお休みしてるんです」

 

「あぁ、じゃあ今は病院帰りか」

 

「はい」

 

 

 耳を澄ます。

 続く会話は魔術に関係無い、他愛もない世間話。

 

 見えるのは二人の後ろ姿。

 アキさんの普段と変わった様子に、浅上さんは気付かない。

 

 普段から一緒にいる私なら、すぐにわかるのに。

そんな、自分よがりな汚い優越感が心を占める。

 

 

(声をかけたい……)

 

 

 どうしました? アキさん、と。

 そう心配して、よく気付いたなって驚く表情を見る度に私は喜びを感じるのだから。

 

 特別という程ではないけれど、一番近い位置にいるのだという事に。

 

 ……もっとも、メンタル以外にお役に立てる事はないのですけど。

 

 

(そうですよね)

 

 

 浅上さんと話す内容は気になりますが、落ち込んでるアキさんは見ていられません。

 盗み聞きもよくありませんし。

 

 

 ――――けど、身体が動く前に、浅上さんの言葉が耳に届く。

 

 

「……何か、よくない事があったんですか?」

 

「え?」

 

 

 それは、私のかけたかった言葉。

 思わず固まってしまい、出ていくタイミングを逃してしまいます。

 

 

「えっと、そんなにわかりやすい顔してた?」

 

「容姿が似てますから……何となくそう思えて」

 

 

 あ〜、確かに自分の顔ならわかるもんな、と参った感じに苦笑するアキさん。

 浅上さんから顔を逸らして、気だるそうに猫背になりました。

 

 手にしていた……サンドイッチでしょうか、全て千切りばら撒きます。

 何を話すでもなく、餌に集まる鳩を見つめて沈黙。

 

 

「――――何で自分が、なんて思っちゃって」

 

 

 唐突に開いた口から洩れたのは、紛れもないアキさんの本音。

 

 

「自分だけってわけじゃないけど、普通の人と比べて重荷を背負わされてるとか……それが、予想以上に精神的苦痛でへこんでいるわけですよ」

 

「……治療の難しい病気とかですか?」

 

「ん、ちょっと違うけど、似たようなものだな」

 

 

 声は普段と変わらないおどけた調子で、逆にそれが痛々しい。

 私の位置からは表情を伺う事はできないけど、きっと、凄く困った様な顔をしている。

 

 頭を抱えてる姿は今まで何度か見ています。

 でも、今までよりずっと苦しそうで。

 

 

(アキさんは、不幸に悩んでいるのでしょうか……)

 

 

 背負わされているとは、そう捉える事もできます。

 

 周囲は普通に暮らしているのに、自分はそれが叶わない。

 中には思い込みが激しいだけの人もいますけど、不幸が顕著であれば嘆くのは当然かもしれません。

 

 

(でも……それに答えなんて)

 

 

 自己が招いた結果ならともかく、運の良し悪しは人間には操れないもの。

 身内が事故に巻き込まれたり、生まれた時から障害を持っていたり……だからといって、かける言葉は励ましや慰めくらいで、気持ちを立て直してあげるのが唯一出来る事でしょう。

 

 かける言葉も、簡単には見つからない。

 薄い言葉では届かない。その気持ちを経験した人でないと、悩みに答えられないと思います。

 

 

 浅上さんは沈黙したまま。

 一般の人に、その悩みを共感して欲しいのというのは難しい話。

 

 

(私だったら……)

 

 

 私だけ、とか、どうして私が……そうやって身体を抱えていたのを思い出す。

 

 

忘れもしない八才の誕生日。

 

まだ成長していない身体には早すぎる行為の後に、ポツンと放り出されたあの空虚な感覚。

冷たい床が一層心身を縮こませて、思考も上手く回らなくなって。

 

 

 それでも、不幸に嘆かないで生きていけたのは救われたから。

 

 特殊な一族の元に生まれたのも、身寄りがいなくなり遠野に引き取られたのも、そこで監禁されていた事も、私一人なら潰れていたかもしれませんけど。

 

 

(……私が今こうしているのは、あの時に泣けたから)

 

 

 身に起きた不幸を、感情にして外に出せた。

 誕生日祝いにプレゼントをくれた言葉に対して、私は悲しくて泣いてしまって……それでも優しく抱きとめてくれたから、あの夜を乗り切る事が出来ました。

 

 一人で抱え込まなくてもいい。

 そう教えてくれたのは、アキさんで……。

 

 

 

 

「――――耐えたら、駄目だと思います」

 

 

 先に口にしたのは、私ではなく浅上さん。

 

 

 私の答えは、それを代弁する様な浅上さんの言葉に消えてしまう。

 物静かな声なのに、そこに意志が込められているのが強く垣間見える。

 

 

「……藤乃」

 

「傷は耐えるものじゃない、痛みは訴えるものだって……これは、私の言葉じゃないですけど……」

 

 

 何かを、誰かを懐かしむ感じ。

 穏やかな声色で、それだけは間違っていないと不安ながらも確信に満ちた言葉。

 

 

「えっと……すみません、答えにならないですよね」

 

 

 恥ずかしそうに頭を下げる浅上さん。

 でも、浅上さんの行った事は正しくて、

 

 

「あ、謝る必要なんてないぞ。うん、確かにその通りだし」

 

「そ、そうですか?」

 

「あぁ、“痛かったら、痛いって言えば良かったんだ”

……周りに何も言わないで一人でずっと抱え込むなんてのは、英雄かただの馬鹿だもんな」

 

「……そう、ですね」

 

 

 少しだけ、アキさんから憑き物が落ちたように感じ取れます。

 反対に、なぜか浅上さんは申し訳なさそうに相槌を打っていましたけど。

 

 

 

 

 ……これ以上は、見ていられませんね。

 

 

「ありがとな。愚痴を言うつもりはなかったんだけど、藤乃さんに話したらちょっとだけ楽になった」

 

「い、いえ、私は聞いてただけですし、お礼なんて……」

 

 

 最後まで聞きとらないまま、音を立てずにこの場を離れた。

 胸に込み上げて来る感情は、不快と不安。

 

 小枝を踏んで音を鳴らすなんてドジをやらないよう、足元に気をつける。

 小一時間前には浮足立ってた気分も、今は逆に一人でいたいと思っていて……。

 

 

(……何で、私じゃなくて浅上さんなんですか?)

 

 

 誰にでもなく問いかける。

 本当は本人に聞きたいけど、そんな勇気は持ってない。

 

 

 

 

 アキさんとの距離感が、自分の位置づけがわからない。

 

 悩んでいたのなら、最初に頼って欲しかった。

 魔術の話では役に立たなくても、今日のような話なら精一杯考えて、気持ちを楽にさせてあげる事ができたのに。

 

 

 一番の補佐役だと思っていたのは私だけ?

 秋葉様や翡翠ちゃん……そして、さっちゃんよりも近い位置にいると思っていたのは勘違い?

 

 

 曖昧な気持ちを抱いたまま、足早に帰路を辿る。

 ここ最近一緒に出かけていたためか、自分の中での欲求が大きくなっていた事に気付きました。

 

 

「……言葉にしなきゃ、わかりませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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志貴「…………夢?」

アルク「志貴、おっはよー! 昨夜はいい夢見れた? 見れたよね?」

志貴「あ、あぁ」

アルク「ねぇ、どんな夢だった? その、私が出てきたりとか……」

志貴「えっと……確か、最初にお前が出てきて」

アルク「うんうん」

志貴「でも、それは幻だったんだ」

アルク「……うん?」

志貴「俺は、その幻を作ってる子に気付いて……お前の後ろに手を伸ばした。

    ……そしたらお前が消えて、いつの間にか水色の髪をした、猫みたいに可愛い子を掴んでたんだ」

アルク「……」

志貴「ベッドの上でその子を見つめてたら……こう……お、終わり! これ以上は恥ずかしいし、犯罪者に思われちまう」

アルク(あ、あの泥棒猫が〜っ! 三咲町に置いてくるべきだったわ)

志貴(あれ、アルクェイドの後ろに黒猫……もしかして)