「スライムとドラキーを配合したらミミックになった。そんな気分だ」
「得したじゃないですか」
例えるのはともかく、なんでドラクエモンスターズ知ってんだろうな、この人。
もしかして、頭を覗かれた時に型月以外の知識も見たってことか?
……もしそうなら、プライベートも何もあったもんじゃない。
一体、どこまで読み取っられたのか、非常に気になるところである。
「いや、予想外と言うのを例えただけで……君の知識に損得を当てはめる事はできん」
時間はあるか? と聞かれ、慌てながらも頷いた。
吸っていた煙草を灰皿に押し付け立ちあがる。
向かう先には食器やらコーヒーメーカーやらが乱雑していて、どうやら飲み物を出してくれるらしい。
玄関で依頼が久しいと言っていた辺り、ここのところ仕事という仕事はしなかったのだろう。
原作では気が向いた時にしか依頼は受け付けない感じだったから、こうして話が出来るのは時期が良かったと言う事。満更、運に恵まれていないわけじゃないっぽい。
……それにしても、この部屋見てると一人暮らしを思い出すな。
こっちに来てから、特に成長してからは翡翠が掃除してくれているので、身の周りが常に清潔。
あ、ちなみに琥珀はやっぱり整理整頓なんぞ破滅的に無理でした。
カチャっと小さな音。
出されたコーヒーに礼を言って口をつける。
そういえば、コーヒーを飲むのは久しぶりかもしれない。
秋葉の仕事を手伝わなくなってから飲む機会が減ったよな、と三咲町を頭に浮かべながらしみじみ思った。
「しかし憑依か……にわかには信じられん話だな」
「すみません、何の前置きもなく突然で」
額に手を当て、俯きぎみの蒼崎橙子。
考えは読み取れないが、この世界がゲームとして成り立っていた世界の事なんて知ったら正常な反応なのだろう。
蒼崎橙子を頼ってここまで来た身としては、自分勝手も過ぎて申し訳なく思う。
「まぁ、私にとっては面白い話でもあるがね」
「……そう言ってもらえると助かります」
「それに君の方こそ、この話は面白くないだろ。記憶によれば君はただの一般人。
憑依ならば“つっちー”とやらになった方が幸せと言うものだろうな」
「は、はは。今はもう大丈夫ですよ……」
そうなったらそうなったで、我慢できずに山本先生を押し倒しそうだし。
てか、今のでわかったがどうやら頭の中はほぼ見られたらしい。
そう思うと身体が落ち着かなくなった。なにこの新手の羞恥プレイ。
「でも、この知識は蒼崎さんにとって得にならないんですか? その、図々しい言い方ですみませんが」
蒼崎橙子は金に固執するというよりも、その反対。
金が足りなくなったら人形をちょいと売り払って生活費を調達しているように、金による裕福な暮らしを望んでいるわけではない。
だから、金で依頼が成立しない時はこの知識を等価交換としようと考えていたために、先の言葉、損得を当てはめられないというが引っかかる。
未来予知じみたものを視て、それが得にならない。
その考えがわからなかった。
「……君は気付いていないのか?」
だと言うのに、蒼崎橙子はその質問に驚く仕草を見せる。
……違う、これは呆れているのかもしれない。
八年間、自分の内に秘めてきたものをさらけ出したこの日。
これは自分一人で悩むにはあまりに重過ぎると、初めて実感した。
「――――この世界が、歪んでいる事に」
憑依in月姫no外伝
第七話
「歪んでいる……?」
その響きに戦慄する。
これは、この町に来てからふいに見つけた“ズレ”の事ではないのか。
だったら、俺だってもう気付いている。藤乃と鮮花に会ったおかげで早々に発見する事ができたのだから。
しかし、こちらの思考を口にするよりも先に蒼崎橙子は否定する。
「私の言っているのは“ズレ”ではない。そこから導かれる考え、その先にある事だ」
「だから、この町で起こる事柄が原作とズレてる事じゃないんですか?」
「……頭はあまり回らないようだな、君は」
馬鹿の相手は疲れると言いたげに溜息を。
これ、あれだ。俺が弓塚相手に話すのと同じ感じだ。もっとも、今は俺が弓塚のポジションだけど。
「大雑把に言ってしまえば、この世界は無限にある並行世界の中でも原作から大分遠い位置にある世界と言える。いや、この世界だけ離れていると言った方が正しいか」
……やばい、さっそく意味がわからない。
そもそも、それだとこの世界は並行世界って事になる。
自分は原作と同じ世界に来たと思って動いていたんだが……まぁ、並行世界と言ってしまえば、説明はつくけどさ。
「まだ呆けた顔をしているな」
「えっと、ここが原作と違う並行世界だってのが少し……」
「簡単な事だ……そうだな、ではこの世界に例えた時、君ならどういった並行世界を思い浮かべる?」
「この世界の、ですか?」
それは型月の並行世界という解釈だろうか。
……そうなると、取りあえず真っ先に浮かぶのは選択肢だ。
アルクェイドルートの世界であったり、秋葉ルートの世界であったり。
その中でもグッドエンドかノーマルエンド、またはバッドエンドの世界もあると思う。
並行世界は無限にあるというのだから七夜の里が滅びなかった世界もあるかもしれないが……それを考え出したらきりがないな。
「月姫のゲームで言えば、志貴の選ぶ選択肢が違う世界でしょうか?」
「それが“正常な並行世界”の形だろう。実際、この世界が原作と同じであろうが違う世界だろうが、その形なら問題はない」
「……あの、それって強引すぎません?」
「何?」
蒼崎橙子の言っている事は理解できた。
つまり、月姫と空の境界との時間軸が違うのは分岐点の選択で左右されない。
よって、この世界は単なる並行世界じゃないという事だろう。
それはやはり強引だ。
選択肢なんてのはあくまでゲーム内。現実に置き換えたら、そんなものは無限にある。
そもそも、原作の世界から離れた世界ってのが意味わからないし。
「時系列が原作と違うのは確かにおかしいです。
しかしだからと言って、それイコール普通の並行世界ではないってのは……あっ」
――――言いかけて、気付いた。
「まだ説明は途中なんだが……さて、どちらに気付いた?」
「え、どっちって」
二つあるのか? と疑問に思いながらも、頭に走った閃きを口にする。
「八年前の事件、四季の事で……当たってます?」
「あぁ、そっちか。まぁ、君の記憶を見る限りはそうだろうな」
「……よくわかりませんけど、分岐の話を考えてて少し引っかかったと言いますか……」
八年前のあの事件。
琥珀を救うために槙久を抹殺、ついでに四季をロアともども殺そうとしたあの日。
志貴と秋葉が襲われたところに介入して、四季と殺り合って……結果は半々で、槙久を亡き者にした以外は原作と変わらないままに終わった。
――――もしもあの時、何もしなかったら?
考えた事はあるが、静観していれば志貴が魔法使いについてく流れにはならなかったなぁ〜と、遠野シキをやりながら主人公が早く帰ってくるのを願っていたくらい。
原作介入しなければ、取りあえずはスタート地点までは原作通りに進んだ。
それは、半ば当たり前のように思っていた事。
しかし、不安を拭えない個所が一つ。
「四季が二人を襲う時間と、槙久が駆けつける時間があまりにも離れすぎている」
「あの時、遠野四季の狙いは妹だった事に間違いはないのだろう?」
「はい。だからもし、そこで介入していなかったら……」
秋葉の名を叫びながら迫ってくる四季を、槙久が駆けつけるまで志貴一人で守らなければいけなくなる。
殺された志貴を蘇生させるのは秋葉の役目なのだから、何が何でも、この場面で秋葉が殺されるような事はあってはならない。
しかし、当時の志貴では一瞬で殺されてしまう筈だ。
運よく一撃目を凌げても、それで手を緩める相手じゃない。
実際にあの場で見ていたからわかるが、当時の志貴は技量がズバ抜けているだけ。
子供の精神では瞬時に戦闘態勢に切り替わる事も、ましてや友人に刃を向ける事なんてできないだろう。
故に、あの場で介入しなければ二人とも死んでいた可能性が非常に高い。
原作で省略されている部分のため、この世界が原作の状況と異なっている保証はない。
もしかしたら、四季は秋葉を庇った志貴を殺した後、正気に戻るのかもしれない。
そうすれば時間に差があろうと秋葉の命に危険はなくなるのだが……やはり、その線はないだろう。
だいたい四季が正気に戻っていれば、親の槙久が監禁こそすれ殺してしまうとは思えない。
息子の可愛さに親戚に隠してまで地下で幽閉して生きながらえさせていたのだから、万が一にも正気に戻っていれば傷つける事すら怪しいものだ。
七夜の民を一方的に虐殺する力を持つ槙久なら、相手を仮死状態にするくらいの芸当は可能であろう。
「……本当だったらこれヤヴァイ」
あくまで推測だが、可能性は大分高い。
ラスボス生きてるのに主人公死ぬとか、かなり信じたくない話である。
「加えて二つ。一つは君がこの世界に来て、最初に気付くべきだったものだ。
君の間違った思いこみのせいで、今日まで触れられずにいたがな」
今とは別の形になるが、と前置きしてこちらを見つめる。
浅神の魔眼、そう小さく呟いて顔をしかめた。
「――――浅神家に伝わる能力は本来、歪曲の能力なぞではない」
「なん……だと……?」
「ふざけている場合か、君は」
「す、すみません。でも今のは素ですから」
ネタとか考える前に口から出たから仕方ない。
てか、それに反応できるのもどうかと思います、橙子さん。
(それはそうと、歪曲じゃない?)
え、浅神って歪曲の魔眼持ちだった気がするが……これってこの世界がおかしいのか? それとも俺の勘違いなのか?
その疑問に答えるように、薄暗い室内に声が響く。
「君は忘れているだけだ。浅上藤乃の印象が強かったせいで思い違いをしているが、原作には浅神家が歪曲の能力を発現しやすいと言った設定はない」
「そ、それ本当ですか?」
「嘘を言ってどうする」
記憶を読み取ったのだから確認するまでもないだろう、そう返されて言葉に詰まった。
「君の祖母の言っていた事に間違いはない。“この世界”では浅神家は歪曲を武器に戦う一族と知れている」
「じゃあ、原作では?」
「“稀に強力な超能力者が生まれる”とされているらしい。つまり、原作とは根本から違う事になる」
「うわぁ……」
婆ちゃんのせいにする訳ではないが少し恨みます、ごめんなさい。
しっかり空の境界を読み込んでいなかった俺も悪いけど、こっちの世界へ飛ばされてテンパっている時に歴史深い家系の話をされたら、薄い記憶なんぞ上書きされるのが普通だ。
「そして、君が気付いていないもう一つが」
「へ?」
頭を整理させる間もなく、次の話を喋り出す蒼崎橙子。
ちょっと待て、待って下さい。まだこっちは回想し始めたばかりだってのに……
……話早くて無理ぽ。
◇
「…………………」
「喋る気力すらない、か」
貴女のせいです。
うん、何も知らなかった頃に戻りたい。
精神と身体の摩耗を代償として、蒼崎橙子の話は聞き終えた。
非常に有り難い情報だったが、正直、手に余り過ぎて途方に暮れてるのが現状である。
(“ズレ”の話まではよかったんだが……)
八年前の事件、浅神の設定に続いて話されたのは、同じく八年前のあの日……翡翠の存在の有無。
原作では惨劇の現場に居合わせた翡翠だが、この世界ではいなかった。
こちらとしては翡翠が根暗になる原因が消えたため、特に問題視していなかった事。
またIfの話だが、今度は――七夜アキハが存在していなかったら。
介入ではなく存在。
イレギュラーのない、原作キャラだけであったなら翡翠のズレはどうなっていたかと蒼崎橙子に問われたのだ。
別に関係ないんじゃね? と思っていた矢先、また気付かされた。
七夜アキハがいないという事は、琥珀も原作のままになる。
皮肉な話、翡翠が寡黙にならなければ琥珀にとって“翡翠の代わりをする口実”がなくなってしまう。
原作では壊れないよう人形になりきっていた琥珀。
だけど、翡翠の振りとは言え、その行為は多少なりとも琥珀に救いをもたらしたはずだ。
笑顔で庭を歩く姉を見て、翡翠はその嬉しそうな顔に何も言えなくなった。
そう翡翠に思わせるくらいに、一時とはいえ感情を外に出せたのだから。
だから……この世界にイレギュラーのないまま進んでいたら、本編開始時には一人ヒロインが消えていたなと苦笑しながらにそう言われた。
言い方にムカついたが、今まで気付かなかった手前、文句言える立場じゃないのが悔しい。
(……それに、問題はその後の話)
話がそこで終わりなら問題なかった。
空の境界のズレや、原作との違いは確かに無視できない。
といっても、神経質になって気にする必要もない。
原作といくらか違う並行世界のようなところだとしても、それだけなら世界が歪んでいるとは思わないから。
月姫本編が終わった今となっては、注意を払う、そんなレベル。
原作設定と違う場合もあるから気をつけろよって感じだろう。
だってのに、この一流の魔術師はにやりと、人事だからって面白そうに言いやがったのだ。
その状況を思い出して鬱になる。
高校時代、いつも通り平均点の前後だろうなと思って返却されたテストを見たら居残り確定の赤点だった気分。
いや、もっと事態は深刻だけど。
「どうした、やはり背負うには重かったか?」
「たかが一般人ですよ、俺。聞かなくてもわかりますよね……苛め? 苛めですか?」
「自棄になるな。それに、追い込んだのは私ではない。――――世界だろ?」
――――世界の意思。
つまりは抑止力の事。そして鬱になった原因である。
そう言えばうつ病って別名は五月病であって、言い換えればさつき病だよな。
ほんと、名前からして不幸だなとしみじみ思った。
「何故、今まで考えなかった? 君の存在自体が異常だという事を」
別世界からの、他の作品の言葉を使わせてもらうと次元世界からの憑依。
そして、魔術回路が刻まれているのは肉体でなく魂。それがこの世界の法則。
よって魂が入れ替わった形の憑依であれば、魔術は使えない。俺の場合は魔眼が使えない事になる。
しかし、今日まで何も問題なく使用してきた。
それは肉体だけでなく、魂まで乗っ取っているという事。
「――――次元を超えた憑依が偶然で起こるはずがない。
しかし人の手で起こすとなれば、それは奇跡というにはあまりにも遠い」
「第二魔法と第三魔法……でしたっけ?」
「そうだ。しかも片方は並行世界でなく次元世界、もう片方は魂の融合と掌握だ。
……魔法使いと言えど、それを同時に起こすなどできはしない」
魔法使いにも不可能となれば、答えは残る一つしかない。
抑止力が作動し、この世界に呼ばれた。
蒼崎橙子の迷いない言葉に、疑う余地すらなかった。
この魔法使いに近いとされる魔術師がそう言うのであれば、そうなのだろうと悟るしかなかったのだ。
「最初に言った世界の歪み。この答えがそれに行きつく。
世界が滅びを免れるために君を呼んだのか……それとも、抑止力にさえも“ズレ”が生じていて正常に働かなかったために君が呼ばれてしまったのか」
二つに一つ。
そして、そのどちらを取っても世界が不安定なのは変わらない。
後者は言わずもがな。前者だって、まだ世界滅亡をかけた戦いなんてやっていないし、これから先、そんな事態になってもまともに動ける自信なんてない。
まだ、後者の方が信憑性はあるだろう。それはそれで十分困る事だけど。
「……はぁ」
ソファに身体を沈め、もたれる。
知識を見せたのは成功だった。今まで気付かなかった、大事なことを知れたのだから。
……でも、こんな話は聞きたくなかった。
月姫本編が終わった後に残ったこの厄介な知識を、外部から読み取れないよう封印してくれればそれで良かった。
蒼崎橙子の迫力に思わずのめり込んで最後まで聞いちゃったよ、おい。
だいたい、そんな事を言われてどうしろというのだ。
原作には登場しない、一介のモブキャラ。
だからこそ程々に、本来の役目など無い故に気負うことなく動けたのだ。
それが、抑止力に呼ばれた存在。
または抑止力さえまともに働かない世界だと言われた日には、こんな自分にも重要性が見えてしまう。
「そんなっ…! バカなっ…! バカなっ…!」
「ぐにゃ〜のネタやっとる場合……それは素か、紛らわしい」
「くっ」
一回しか口のつけてないカップを取り、喉に流し込む。
もう冷めてて不味かった。余計に鬱る俺。
「そう気を落とす事もないだろう。どちらにしろ、すぐに動く事もあるまい」
「いや、そうですけど……変な感じにプレッシャーがかかりまして」
「……記憶で見た君よりも、大分脆いな」
頭が悪い上に精神が虚弱とくれば、蒼崎橙子でなくとも呆れるか。
別に好印象持たせようとしたわけじゃないけどさ、と顔を逸らす。さらに鬱る俺。
「――――まぁ、そのくらいでもいいかもしれないな」
こちらを見据えて、蒼崎橙子は立ち上がる。
壁にかかった時計に目を向け、つられて俺も見た。
「今日の話も踏まえて、君はもう少し自身の力量を正確に測った方がいい。
君はもしかしたら、この世界で重要なポジションにいるのかもしれないのだからな」
蒼崎橙子が話し始めたのは、“ズレ”と関係ない、俺自身の事。
「強い力は、時にその本人を滅ぼす。
逆に、力の無いモノが力の強いモノと関わるのも滅びを招く」
「……志貴たちには近づくなって事ですか?」
「君の場合は、彼女たちと言った方がいいと思うがね」
脳裏に浮かぶのは、琥珀と弓塚。
真祖や代行者の場合もあるが、何となくそう感じとれた。
「幼少期に琥珀を救ったために、欲が出て原作へ介入。そして本編の開始時期と七夜志貴の性格の改変。
また、吸血鬼化した弓塚さつきも救おうとしたため、代行者に目をつけられ戦闘になる始末。現在は死徒狩りを逃れるために逃亡中だ。
……これは明らかに引き際を間違い、君の裁量を越えてしまっている」
最初の原作介入は結果的に良い方へ転んだがな、そう言う蒼崎橙子の顔は実に無表情で、
「誰かを救うのは構わない。しかし、君はそれに振り回され過ぎだ」
琥珀に手を差し伸ばさなければ、自分一人ならどこへでも行けた。
志貴の性格を変えなければ、互いに一定の距離は取れていた。家族愛なんて言葉で強い絆を持つ事もなかった。
そして弓塚を救わなければ、今こうして三咲町を出る必要はなかったと。
「今日の話とともにその流されやすい性格について、今一度考える機会を持った方がいい」
これは、蒼崎橙子なりの親切なのだろうか。
彼女はすでに奥の部屋へと消えた。言いたい事は全て言い終えたのだろう。
(……でも、蒼崎橙子ってこんなに教えてくれるキャラだっけ?)
予想では、このアドバイス全部が等価交換に加えられるんじゃないだろうか。
この世界が不安定だとしても、それなりにこちらの知識が有益な情報である事に変わりないし。うわぁ、ケチだよこの人。
――――なんて、ふざけた考えで脳味噌を満たして意識を逸らそうとしても、魔術師の言葉はこびりついて一向に離れない。
それはそうだ。考えてはいけないと思って遠ざけていた事を、ズバリ言われたのだから。
しかもこのタイミング。圧倒的効果。
世界云々のでかい話で怯えさせた後に、人の醜い精神面突いてくるとか最高に勘弁して欲しい。
後悔はしたくない。
後悔しても今が満足だと思っていれば大丈夫だと、あの夜に誓った。
今日は……漫画喫茶にでも泊っていくか。精神的に二人に合わせる顔がないし。
ここ出たらコンビニで着替えを買おう。まだ記憶のプロテクトはかけてないが、先に心のプロテクトを。
……ついでに胃薬も必要かもしれん。
琥珀に言うと色々面倒だから、自分で調達しなければ。
「さっちん病になりそうだな……」
時期が時期だけに。
コーヒーごちそうさまでした、とできるだけ心情を明るく保つ努力をしながら、伽藍の堂から逃げるように外へ出た。