×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

 

「へぇ、藤乃のご親戚でしたか。その、見事なくらい似てますね」

 

「男だけどな。知り合いに会ったら間違われるとは思ってたから、気にしないでくれ」

 

「あれ……でも、藤乃から従兄の話なんて一度も聞いた事ないですけど」

 

「複雑な事情があって、向こうはこっちの家族を知らないんだよ」

 

 

 鮮花が呼び掛けに応じてくれたので、四人がけのテーブルへ移った俺たち。

 

隣に琥珀を座らせ、対面には鮮花。

その顔はやはり、原作より年齢が上回っているようには見えない。

 

 

「呼び止めておいて何だが、ここで話してて大丈夫か? えっと、誰かと待ち合わせしてたら迷惑になるだろ」

 

「いえ、約束はしていますけど、この店の評判が良かったので行ってみようってだけですから。

それに、藤乃にこんな年の近い兄がいたら友人として興味持っちゃいますよ」

 

「……こっちの話を疑わないのは助かるけど、これって本人も知らないんだぞ?」

 

「六割ほどで、全面的に呑みこんでいる訳じゃありません。

ただ、藤乃の親戚と嘘をついてもメリットが思い浮かびませんし」

 

 

 はっきりとした物言いとお嬢様的な雰囲気は原作の通り。

 

 俺としては何となく秋葉と話してる感じだ。

まぁ、こっちも藤乃に似ているので、鮮花も同じような事を感じてるだろうけど。

 

 と、てっきり会話には入ってこないと思っていた琥珀が、恐る恐るといった風に鮮花に話しかける。

 

 

「あの、鮮花さん? 興味を持つという事は、まさか……」

 

「私も三つ上に兄がいるんです。それで、藤乃に共感したので」

 

「そ、そういう事でしたか」

 

「琥珀、少しもちつけ」

 

 

 今の鮮花の言葉、三つ上と言うのは原作と変わらない。

 そうなると現在、黒桐幹也は高校二年で志貴より一つ上って事になる。

 

 原作と違うというより、この世界では月姫と空の境界の時系列にズレがあるって事なのか……?

 

 

(しかし、鮮花と藤乃が出会うのは高校になってからのはず、だよな?)

 

 

 藤乃が礼園女学院に編入して、そこで鮮花との繋がりができる。

 中学の時点ですでに二人が知り合っているという事は、どこかで偶然出会ったか、もしくは同じ学校だったという可能性も考えられる。

 

 正直、怖い。

 

 時系列と藤乃と鮮花の出会い。

今のところ、こっちの世界でのズレはその二つだが、程度はどうであれズレがある事に変わりはない。

 

 と言う事は、もしかしたら原作でいた人物がいなくなっている、なんて事態も可能性としてはあり得るわけで……

 

 

「あ、やっと来た!」

 

 

 鮮花が入り口の方へ目を向けたので、俺と琥珀もつられてそちらを見た。

 

 

「藤乃、待ち合わせより五分オーバーなんだけど」

 

「ご、ごめんなさい。委員会の仕事が長くなって」

 

「どうせまた余分な仕事も押し付けられてたんじゃないの? たまには断ってやればいいのに」

 

「そんな事言われても……断るのは、相手に悪いから」

 

 

 言い忘れてたけど、鮮花も藤乃も制服は原作のと同じ修道服っぽいもの。

 中学だから違うんじゃね? と思っていたが、そんな事はなかったぜ。

 

 

「……従妹か。初めて見たけど、どうよ琥珀?」

 

「ちょっと頭が痛くなってきました……」

 

「髪の長さ以外、ほとんど同じだからなぁ」

 

 

 唖然としている琥珀を隣に、俺は二人を見て意外に仲良さそうだなと思っていたり。

 それが良い事か悪い事かはわからないけど。

 

 

「あ、紹介するわね、藤乃。こちらが……って、そういえば私も名前聞いていなかったっけ」

 

 

 こちらに手を出して、ボケる鮮花。

うん、可愛い。

 

 

「そうだな、すっかり順序を間違えてた。

 ――磯野アキ、十五才の男性だ」

 

「同じく磯野琥珀、十六才です」

 

 

 身分証に書かれてあった名前を使い、自己紹介。

 年齢は身分証と違うが、さすがに二十歳じゃおかしいしな。

 

 

「私は礼園女学院中等部二年の黒桐鮮花です。

そして、こちらがさっき話していた友人の――」

 

「あ、浅上藤乃です。えっと、鮮花とはルームメイト……でいいんだよね?」

 

「なんで私に聞くの! 自己紹介なんだから相手にはっきり言いなさいよっ」

 

「じ、自己紹介って苦手だから……」

 

 

 鮮花に引っ張られながら、席へ座る。

 正面には浅上藤乃。ここに来て初めて目が合った。

 

 大人しそうな感じの子で、似た容姿の人物がいるってのに視線は下向き。

ただ、やはり時折ちらりと、こちらを気にしている様子は伺える。

 

 

(藤乃は……どうなんだろうな)

 

 

 原作とのズレが見られるのか。

 原作のままであれば何も問題ないのだが、それでも魔眼と無痛症なんてどちらも無い方がこの子にとってはいいに決まっている。

 

 

 ……てか、鮮花とルームメイトって……俺も頭痛くなってきた。

 

 

 

 

 

憑依in月姫no外伝

第五話

 

 

 

 

 

「苗字が同じって事は、お二人ってご兄弟なんですか?」

 

「いや、俺と琥珀は養子。色々あって、身寄りがいなくなったから」

 

 

 聞いた瞬間、しまったと表情が変わる鮮花。

 ……もうちょっと別の言葉を使えよ、俺。

 

 

「あ、別に気にしなくていいからな。今は楽しくやってる……よな? 琥珀」

 

「なんで私に聞くんですか」

 

「楽しく暮らしてたら、そもそもこんなとこまで来てないと思って……」

 

 

 あ、琥珀のやつ目を逸らしやがった。

 友人なら弓塚の幸薄スキルくらい擁護してやれっての。原因はそこなんだからな。

 

 

「でも、藤乃と……えっと」

 

「アキでいいぞ。磯野だと被るし」

 

「はい、藤乃とアキさんは親戚同士ですよね? なら、藤乃のご両親が養子に迎えなきゃおかしくないですか?」

 

「あ、鮮花! あんまり聞いたら失礼だって」

 

「藤乃は知りたくないの?」

 

「私は……従兄がいるなんて知らなかったから、それに……」

 

 

 鮮花に目配せして、じっと藤乃は俺を見つめる。

 本当に親戚かなんて決まったわけじゃない、そう思ってるのが表情から見てとれた。

 

 そりゃ、容姿が似てる以外に証明できそうなものはない。

疑われるのは当然と言っても仕方ないよな。

 

 

「けど、あんたの親戚って嘘ついても意味なくない?」

 

「私の義理父さん、結構な資産家だから……誘拐とか」

 

「義理父さんの娘を誘拐するって計画として微妙じゃない。

だったらもっと他の人を狙うわよ、普通。それに藤乃、義理父さんと仲悪くなかったっけ」

 

「そ、それは……」

 

 

 言い包められる藤乃。

 よくわからんが、いつの間にか鮮花が味方になってました。

 

 ちなみに、藤乃の言葉から全てひそひそ声。

 

 初対面の人に対して目前で内緒話って大胆だな、おい。

もっとも、耳の性能が高いので全て聞こえてしまってるんだけど。

 

 

「えっと、取りあえず注文頼まないか?」

 

「あ、そうですね……では、私はアイスティーで。藤乃は?」

 

「じゃあ、鮮花と同じのを」

 

「面倒だから、俺もそれで」

 

「私もアキさんと同じものでお願いします」

 

「……やっぱり、私はミルクティーにするわ」

 

 

 ミルクティーとアイスティー三つをウェイトレスに頼む。

 適当に入った店だけど、意外に値段がリーズナブルだと感心した。

 

 

「養子の話だが……簡単に言えば、うちの家族は藤乃のところと絶縁状態で親戚として扱われなかったって事かな」

 

「けど、藤乃は知らなかったんでしょ。アキさんは両親から教えてもらったんですか?」

 

「うん、それは私も知りたいかも……」

 

 

 メニュー表を横に置いて、続きとばかりに話が始まる。

 質問するのは好奇心の強い鮮花。できれば、藤乃から聞いてほしいんだけどな。

 

 

「うちは四人家族で、両親と祖母がいてさ。で、婆ちゃんと仲良かったからその時に色々と聞いたんだよ。

と言うか、村八分な雰囲気が気になってたからこっちから聞いた」

 

「……良く考えると、アキさんの家族の話って私も聞いた事ないですね」

 

「あれ? 琥珀には話したような気が……してないな」

 

 

 八年間も一緒にいてなに話してたんだろうな、俺ら。

 まぁ、お互いに明るい話題じゃないから必要ないと思ってたのだろうけど。

 

 

「藤乃さんって元は浅神って苗字だったろ? 今は分家にいるだけで」

 

「はい、小さい頃は浅神藤乃でした」

 

「うちの大祖父も浅神だったんだが、何と言うか……愛の逃避行をしちゃったんだよ」

 

「「「愛の逃避行?」」」

 

 

 いきなり飛んだ話題に、他三人が揃って反応する。

 

 

「ある一族の女と結ばれたかったんだけど、浅神とその家はあまり関係が良くなくてな。

特に相手の一族は掟が厳しくて」

 

 

 何せ、結婚相手は全て近親相姦である。

 七夜の血を守るにしたって、その掟はどうなのよって感じだ。

 

 

「き、禁断の愛というものですね、わかります」

 

「あ、鮮花、興奮し過ぎだよ! 自重してっ」

 

 

 やたら反応する鮮花に、そこはズレてないのなと心の中で一応安心。

 

 

「浅神の方も譲らなかったらしく、結局二人は一族を捨てて身を眩ましたってわけだ。

だから、その人のひ孫である俺は知ってても、藤乃さんの方ではその話はされなかったんだろ」

 

「……その後、二人はどうなったんですか?」

 

「何だかんだで、その一族の村はずれに家を建てさせて貰ったらしい。肩身は狭かったけどな」

 

「そうですか」

 

 

 鮮花はともかく、藤乃が真面目に聞いてくれてるのは意外だ。

 ご先祖様の話だからだろうか。聡明なだけで根はいい子そうだもんな、藤乃。

 

 

「子供も作って俺の代まで続いたんだが、不幸があって俺以外他界したんだよ。

それで、親身になってくれる身寄りもいなかったから養子になったってわけだ」

 

「凄い波乱万丈な人生ですね」

 

「そうか? ……言われてみると、厄介なとこに生まれたかもしれん」

 

 

 周囲に異常なやつらが多いので、そう感じる事は少ないけど。

 

 

 注文した飲み物が運ばれてきたので、カップを手に取り一息つく。

 

 飲み物は普通に美味しいと思う。

店も洒落てるし、価格設定も加えると鮮花が評判良いと言っていたのも頷ける。

 

 

「まぁ、今の話が本当だって証拠はないけどな。

浅神であることに間違いはないから、何だったら病院でも行って調べてくれても構わないぞ。面倒臭いかもしれんが」

 

「藤乃、案外言ってること本当かもよ? いい話だし」

 

「それは関係ないんじゃ……でも、本当の話だったら素敵ですね」

 

 

 幾分か緊張がほぐれたのか、アイスティーを口に運びながら藤乃は言う。

鮮花はミルクティーだっけかな、一連の仕草が二人とも上品だ。

 

 おいしいね、と微笑む鮮花に、そうだねと同調する藤乃。

 

 

 

 

 ……さて、どうやって調べるか。

 

 

「俺としては、藤乃さんの話も聞きたいけどな」

 

「わ、私ですか?」

 

「婆ちゃんだって浅神から離れて暮らしてたから、年の近い従妹がいるって事しか知らなかったし、ここで偶然会えたのも何かの縁だろ。

まさか、こっちから浅上の家を訪ねるわけにはいかないしさ」

 

「そうですよね……でも、何をお話したらいいか」

 

「何でもいいって。家族や友人の話でも、藤乃さんと話せれば嬉しいしな」

 

「う、嬉しいなんて……そんな」

 

 

 藤乃はカァと頬を染めて俯いてしまう。

 ……別に口説いてるわけじゃないぞ? 純粋に血縁者と話せてって意味でさ。

 

 

「―――っと」

 

 

 ポケットから携帯を取り出し、手を滑らせるように見せて落とした。

 できるだけ自然を装い、座ったまま身体を曲げて床に落ちたそれを手に掴む。

 

 

(足首に回転軸を、数は一つ)

 

 

 素早く魔眼を解放し、藤乃の足首に軸を合わせる。

 

 出力が弱いので、身体にダメージを与える程のものではない。

 だが、足に違和感か、はたまた少し痛いか、身体が正常であれば何かしら反応があるはずだ。

 

 

 ……藤乃を無痛症かどうか調べる手段が歪曲の魔眼というのは、皮肉な事だけど。

 

 

 拾った後、何事もないように上体を起こして元に戻す。

 

 そして目の前の藤乃は―――変わらず、隣の鮮花と話したまま。

 自身の足元を触る事も見る事もなしに、変わらず会話を続けていた。

 

 

「アキさん、どうかしました?」

 

「い、いや、何でもないぞ」

 

 

 琥珀の問いに少し慌てながらも、確認のため足を動かす。

 

幸い藤乃の席は俺の対面。

四人とも見えないテーブルの下。足を前に出して、藤乃のふくらはぎ辺りを軽く突いてみるが……

 

 

(―――決まりだっ)

 

 

 二回、三回と繰り返しても一向にない反応に、確信する。

 藤乃の無痛症は、こっちの世界でも変わっていないと。

 

 

(……もしかしたら、俺の疑い過ぎか?)

 

 

 空の境界の時系列、鮮花と藤乃の出会いと二つの点は設定と異なっていたが、実際の相違点はそれだけかもしれない。

 

実際、月姫では全て原作通りだった。

だったら、空の境界もほぼ原作通りの可能性が高いのではないだろうか。

 

 

(取りあえず、ズレについては後回しだ。今は……)

 

 

 藤乃が原作通りなら、厄介なものを三つ持っている事になる。

 一つは歪曲の能力、二つ目は後天性無痛症、そして最後に虫垂炎。

 

 無痛症はともかくとして、虫垂炎が腹膜炎に進行するにはまだかなりの時間がある。

 

 つまり、ちょいと介入すれば藤乃が原作のような悲惨な目に合う事は避けられる……と思う。

藤乃が痛みに苦しむのはその病のせいなのだから。まぁ、一番の原因は藤乃を襲った不良どもなんだが。

 

 

(……しかし、そうなると駒が足りなくなるよな?)

 

 

 藤乃は両儀式と戦わせるための荒耶の駒の一人。

 

 下手に介入したら、原作通りにいかなくなる。

 

特に空の境界は月姫やfateと違い分岐点のない普通の小説だ。

何もしなければ、一本道にエンディングまでいける事は約束されているようなもの。

 

余計な手出しはしないのが、賢い立ち回り方だろう。

 

 

現に、今こうして蒼崎燈子を探しに来ているのも弓塚という他人を助けた代償に他ならない。

 

助けた事に後悔はないし、笑っている顔を見れれば俺も嬉しい。

けど、そのおかげで代行者に睨まれたり、三咲町にいる事ができなくなってしまった。

 

 

 藤乃を助けるなんてのはエゴだ。

 どんなに苦しい未来があったとしても、最終的に命は繋がるのだから。

 

 

 

 

 ……そう考えながらも、一方ではどうしても思ってしまう。

 

 

 こっちに危険がなければ、別に手を伸ばしても構わないんじゃないかと。

 

 琥珀を槙久から救う時のように、弓塚を正気に戻す時のように、命をかけるのはもうごめんだ。

 だが、少し苦労するだけで救えるのなら……

 

 その時は、その子を助けてあげたい。

 原作が悲しかった分、変えてあげたいと思う余裕が今はある。

 

 

 

 

「――――――実は俺、藤乃さんを探してたんだ」

 

 

 気付いたら、そんな言葉を口にしていた。

 

 唐突に出た言葉に、鮮花、藤乃、琥珀の注目が集まる。

 自分の考えに一瞬戸惑うが、そっと琥珀の手を握り、迷いを消した。

 

余計な事は言わないでほしいという意味と、自分のやろうとしている事は間違っていないと自身に言い聞かせるために。

 

 

「え、わ、私?」

 

「ここを見てほしいんだが―――」

 

 

 婆ちゃん、ごめん。

 心の中で謝り、服を捲って包帯に巻かれた腹を藤乃たちに見せる。

 

 

「これは先月にやった腹膜炎の手術。

 うちの大祖父と婆ちゃんもこれを患って死んだから、死ぬ数日前に婆ちゃんが浅神の血が濃いとなりやすいんじゃないかって言ってな」

 

 

 デタラメ言ってるなぁと思いながら、それでも言葉は迷わず出てきた。

 

 

「思い出して検査したら、俺にも予兆が見つかって……で、従妹の話を覚えていたから、大丈夫か心配になって探してた」

 

 

 藤乃が死ぬ事はないとしても、琥珀と同じで見ていて辛くなるくらい悲惨なのに変わりはない。

 もう月姫のような死線をかい潜る真似はごめんだが、こちらに大した危険がないならば……琥珀もいて、時南医院という伝手もあるので病を治す分には都合がいい。

 

 

 こっちの世界に来る前は、藤乃も好きなキャラの一人。能登さんボイスも好みなんだ。

 

 小説の中でも悲劇だってのに、ここは紛れもない現実。

目の前の女の子に血まみれになって這いずり回るような辛い思いはさせたくない。

 

 

 全員のキャラの展開を知っていて、可哀想な奴ら全てに手を伸ばすなんてできやしないから、藤乃を選ぶってのはもう俺の我儘。

 

 

「――――だから、今から病院にいかないか? 金なら俺が出す」

 

 

 それに……本来のこの身体の持ち主なら、きっと助ける筈だ。

 

未だに憑依したままの、藤乃の兄貴分でもあるこの身体。

瓜二つの藤乃を目の前にして、心のどこかに、罪悪感が芽生えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

/

 

小説置場へ