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「よし、行くぞ……って琥珀は?」

 

「もうちょっと時間かかるんじゃないかな、服選んでたし」

 

「服?」

 

「ほら、わたしとアキ君で買ってあげたじゃん」

 

 

 昼食が終わったのを見計らい、有間の家へ琥珀を迎えに。

 

三咲町を離れると話してから十三日。

取りあえずは、第三章の舞台となった吉祥寺駅辺りへ行く事にした。

 

 

 目的の魔術師―――蒼崎燈子の住んでいる事務所の外観は覚えているが、場所まではわかっていない。

 

 建築途中で鉄筋剥き出しなので案外簡単に見つかりそうだが、周囲にかけられている魔術が厄介極まりないのだ。

都内全部歩けば発見できる、なんて事はないだろう。

 

 よって三ヶ月程、向こうで適当な宿を拠点にして探そうと思う。

 弓塚を三咲町から離す意味でも、この町には居られないわけだし。

 

 

……そういえば買ったきり、一度も着てないよな」

 

「というより、翡翠さんに着せてたような……」

 

 

 弓塚は着替えを手伝っていたので私服姿を見れたらしいが、こっちは何も見れてない。

 和服で試着室へ入り、次にカーテン開いた時も同じ姿。そしてこれ買いますねの一言。

 

金払ったの、俺なのにな。

 

 

「しかし、やっと着てくれるか……おら、わくわくしてきたぞ」

 

「そんなに期待されても困りますよ」

 

「む、やっと来た――――――か?」

 

 

 声に振り向き、目を見開いた。

 

 買った服はそんなに上等なものじゃない……はず。

 あんまり高いと遠慮しそうだから、入った店は値段的に安くもなく高くもないところ。

 

 だから琥珀の服だって、豪華な感じはどこにもない。

 落ち着いた色でまとまっていて、ちょっと洒落た上着とスカートで着飾っているだけ。

 

 

 ……なのに、固まってしまう。

 

 

やばい。

 琥珀が普通の女の子っぽい服を着る。これ反則だ。

 

 

「えっと……似合ってるとか言って頂けると嬉しいんですけど」

 

「あ、そ、そうだな。おk、十分おkだ」

 

 

 って動揺してどうする。そして日本語喋れよ、俺。

 

 

……ん、凄い似合ってるぞ、秋葉なんて目じゃないくらいに」

 

「もっと別の言葉はないんですか、もう。あと、褒める時くらいこっち見て下さいよ」

 

「いや、でもなぁ……

 

 

 上目づかいに不満を言ってくる琥珀に、思わず後ずさる。

 

素材が一級品なのだから、正直どんな服を着ても似合うだろうとは予想していた。

和服とは違うのだよ、和服とは! とまぁそんな感じに。

 

 しかし、今の季節は春。よって服なんてそんな分厚いものでないわけで……

 

 

(くっ、通常の三倍とはまさにこの事!)

 

 

 鎖骨、鎖骨がやばい。

 

 ついでに腰のくびれとか、スカートの下から覗くふくらはぎ。

 何と言うか、普段が和服だけに身体のラインがわかるのが新鮮すぎる。

 

 

 顔が赤くなるのが自分でもわかる。

 可愛さに加えて、男のサガのポイントもついてくる同時攻撃だから仕方ないのだけど。

 

 

―――もしかしてアキさん、見惚れてます?」                     

 

「っ!?」

 

 

 こちらの反応をどう取ったか、琥珀はその場でくるりと一回転。

 

ふわりと浮くスカート。

そして、悪戯するような笑顔でさっと浮いたところを押さえる仕草に俺ノックアウト。

 

 

 そのまま軽い足取りで、弓塚を横目で見てから近づく琥珀。

 耳元で囁く声が、やけに艶めかしい。

 

 

―――アキさん……緊張して、固くなっちゃダメですよ?」

 

「ちょ、おま」

 

「あはっ。もちろん、これから魔術師さんに会いに行きますけど緊張しすぎないで下さい、って意味ですからね」

 

……ひ、人で遊ぶな!」

 

 

 捕まえようと伸ばした手をひらりと笑いながらかわす琥珀。

 服を買ったのは失敗したかもしれない。これじゃ頭が上がらないぞ、全く。

 

 

「早く慣れないと……人前も歩けん」

 

「むぅ〜、アキ君、わたしの服も感想聞かせてよ!」

 

「暑いのにかっぱ乙」

 

 

 

 

 

憑依in月姫no外伝

第四話

 

 

 

 

 

「あ! あそこ宿泊先じゃない?」

 

「おぉ、結構いいところだ……金、大丈夫か琥珀?」

 

「はい、前に何度か秋葉様もお使いになりましたから、上手く交渉できまして」

 

 

 それなりにお安くなったと。

 確かに下手したら九十日の宿泊だから、少しくらい値切ってもらわなきゃ厳しいよな。

 

 

 ロビーに入り、手続きを。弓塚は相変わらず怪しいので離れて待機。

 

 受付といくらか話し、カードと身分証を提示して済ます。

 最上階に一部屋。ベッドは二つだが……まぁ、問題ないだろう。

 

 

……そういえば、俺たちの身分証ってどうなってるんだ?」

 

「あれ、アキさん見た事ないんですか?」

 

「大して必要なかったから、仕方ないだろ」

 

 

 俺と琥珀はともかく、弓塚のなんていつの間に作ったんだろうな。

 自分の顔写真が入っているものを取り、確認してみる。

 

 

「うぉ、名前はアキだけど苗字が磯野になってる!?」

 

 

 と言うか、名前も一応“アキハ”のはずなんだが、いつの間にか削られてるし。

 

 

「ちなみに私と翡翠ちゃんも同じですよ。“遠野”ですと養子になちゃいますからね」

 

「だからってなぜに磯野……」

 

 

 一文字でも変わっていれば間違えられる事はないが、全然ユカイな人生じゃないため皮肉たっぷりの苗字である。

 

 自分、琥珀のと見て、残りの弓塚のへ目を移すと、

 

 

「―――島 次郎?」

 

 

 しまじろう、だと?

 

 ……いやいや、さすがにこの名前はないだろ。

どう見ても男の名前だし、さつきのさの字も入ってないぞ。

 

 

「はい、本物はこっちですね。驚きました、アキさん?」

 

……なぜ作ったし」

 

「さっちゃんの声、似てるじゃないですか。それでつい」

 

「似てるってレベルじゃないけどな」

 

 

 弓塚の顔写真で名前が島次郎とはなかなかシュール。

本物……と言っても偽造だが、弓塚のそれを見せてもらう。

 

 名前には星野さつきと書かれてあった。……これが妥当か。

 

 

「しかし、身分証がこうなら人前では呼び方は変えた方がいいな」

 

「そうですね。厄介事はできるだけ避けたいですし、気をつけた方がいいですね」

 

 

 荷物を部屋まで運んでもらった後、弓塚を部屋に残してホテルを出る。

 

 

 時系列的に空の境界のイベントは……多分、全て終わっていると思う。

 

 多分というのは、実は空の境界、何と上巻しか読んでいなかったりする。

映画も六章までしか見ていないので、後の知識はネットで所々拾った感じ。

 

 小説読むのがダルかったので後回していた俺が悪いんだけどな。

 ……まさかこんな状況に陥るなんて、普通は思わないから仕方ない。

 

 

 

 ただ、月姫より何年か前の話ってのは覚えている。

 

 もしも弓塚が両義式に出会った場合、事態がどう転ぶかわからない。

よって、魔術師に会う前に弓塚を動かすのは絶対に無しだ。

 

 

「今日は……取りあえず、色々と歩き回ってみるか。魔術の痕跡が少しでも感じ取れれば成果ありだな」

 

「私はあまりお役に立てないですけど、さっちゃんのためにも精一杯頑張りますよ!」

 

 

 

   ◇

 

 

 

「撮りますよー、はいチーズ」

 

 

 カシャっと携帯の音が鳴った後、笑顔とブイの字を作った左手を元に戻す。

 

 

「すみません、ありがとうございました」

 

「いえいえ、ではそちらも楽しんで下さいね」

 

 

 三十代くらいと思われる男性から携帯を返してもらい、礼を言う。

 微笑みながら、待たせていた女房と子供の元へ向かう男性。いい人でした。

 

 

「優しそうなお父さんでしたね」

 

「今日は平日だから、有給取っての家族サービスだろうな」

 

 

 現在位置は武蔵野市の井の頭恩賜公園。

 公園の中心には大きな池があり、その池に覆いかぶさるように咲く桜の木は格別であるとか何とか。

 

 

「あともう少し早く来てれば、満開の桜を見れたのに……ちょっと遅かったのは残念です」

 

「そうか? まだ結構咲いてるし十分綺麗じゃん」

 

 

 全部散っているならともかく、花弁はまだまだ生きている。

おかげで花見の連中もいて賑やかだし。

 

 

「……てか、何で俺たちこんな観光気分なんだろうな」

 

「そ、そうですね。桜が綺麗でしたから、思わず写真まで撮ってもらっちゃいましたけど」

 

 

 本来の目的は魔術師の捜索。

 だって言うのに、なぜか周囲の人につられてこっちまで花見モードである。

 

 互いの手元を見れば、酎ハイ缶が握られている。

 

 いや、飲む気はなかったんだけどね。

酔っ払っているおじさん達が気前よく渡してくれたので、会話に付き合うついでに頂戴しておいた。

 

 

「……まぁ、一日目だし別にいいか。

ただ、今日中に市内は周っておきたいから、さすがに花見をしてるわけにはいかないけど」

 

「でしたら、駅周辺の商店から順に歩いていきません? 意外に建築途中の建物って多いかもしれませんし」

 

「そうだな」

 

 

 琥珀の意見に賛成して、商店街の方へと歩を進める。

 

 一人ならともかく、琥珀も一緒なら長時間歩き回るわけにもいかない。

郊外でないなら喫茶店とか簡単に見つかりそうだし、休憩もしやすいだろう。

 

 

「ふふ、けど、こういうのっていいですね」

 

「どうしたんだよ、いきなり。気持ち悪いぞ?」

 

「……アキさん、あんまり鈍いと怒りますよ?」

 

 

 隣を歩く琥珀はやたら上機嫌。

 琥珀の言いたい事はすぐわかったが、何となく恥ずかしかったのでスルーしようとしたってのに。

 

 

「こうやって遠出するのって、もしかしたら初めてじゃありません?」

 

「いや、修学旅行で弓塚とディズニーランドに……」

 

「私とは、って意味ですよ! もう、最近のアキさん、そうやってすぐ茶化すんですから」

 

「じょ、冗談だって。確かに二人で観光とかはした事ないもんな」

 

 

 苦笑いしながら琥珀をなだめる。

 そりゃ、今まで忙しかったというかそこまで余裕がなかったので、買い物に付き合う程度ならともかく、三咲町以外を並んで歩く事はなかった。

 

 だから、気分が良くなるのはわかる。

こっちも嬉しいし、気持ちは同じだ。

 

 

(―――しかし、今の琥珀は女の子らしさが半端なくて、可愛すぎるんだよっ!)

 

 

 いや、心の中で何言ってんだろうね、俺。

 

 本編が終わってから、マジで距離感が掴めなくなったっぽい。

メタァな発言だが、多分、作者もよくわかってないんじゃないだろうか。

 

 

「私は使用人ですので、こちらからアキさんを誘うなんて事はできませんし」

 

「え、そんなに気にする事か、そこ?」

 

「その……暇な時もありましたが……アキさんの時間を潰しちゃうような感じがして、気が引けていたんですよ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「うーん、アキさんって暇そうに見えても実はそうじゃなかったり、とかでしょうか」

 

 

 やたら立派な人? 扱いされてるが、そいつは評価しすぎだろうと思う。

 

 迫りくる本編のために訓練はかかさなかったけど、漫画やゲームを現実逃避として楽しんでいたし。

どう見られていたかは定かでないが、人としての器が小さいので心に余裕がなかっただけだ。

 

 

「十分暇だったけどな」

 

「そうですね……でも、やっぱり子供の頃から、アキさんは特別に見えちゃうんですよ」

 

「特別……変人ってことじゃないよな?」

 

「変わった人、という意味では合ってますね」

 

 

 頭に浮かんでいるのは、何年前の二人だろう。

 欠けた記憶なのか、琥珀は思い出そうとおでこにしわを寄せて考え込む。

 

 

「……今思うと、アキさんが久我峰様に同じクラスになるようお願いしていた子って“弓塚さつき”じゃなかったかなって。

あの時、そんな言葉を聞いた気がするんです」

 

 

 うろ覚えなので本気にしないで下さいよ? と前置きして、言葉を続ける。

 

 

「さっちゃんが一緒に戦ってくれたのも、そうすれば辻褄が合うんです。

 もちろん、これは私の勝手な憶測ですけど」

 

「えっと……要は未来予知じみた行動をしていたから、変わった人と」

 

「それだけではないのですが……まぁ、今は関係ありませんからこの話は終わりましょう」

 

「おい! 引っ張っておいてそれかよっ」

 

「そんな話よりも、です」

 

 

 はい、と微笑みながらで手を差し出してくる琥珀。

 

 

「空き缶を捨てて来いと……」

 

「違います! 缶を持ってるのは反対の手じゃないですか。その、手を繋ぎましょうって」

 

「なん……だと?」

 

「そ、そんなに驚くことですか?」

 

 

 若干頬を染めて不満を言ってくる姿に、あれ琥珀ってこんな子だっけと戸惑ってしまう。

 可愛いから全然問題ないのだけど。

 

 

「さっちゃんを助けるついでに、私自身も楽しみたいですから。

 それに、昔から引っ張ってくれるのは変わらないじゃないですか」

 

「いや、それとこれとは別な気も……」

 

「大丈夫ですよ。えっと、私は恥ずかしくありませんし……」

 

 

 こっちは恥ずかしいんだよ! と声に出さずに叫んでみるが、琥珀の手は差し出されたまま、引っ込める様子は全くない。

風が吹いても微動だにしない程である。

 

 平日と言ってもここは都内。

 行き交う人は多く、そんな中で二人して突っ立っていたらいい見せものだ。

 

 

(くっ、絶対そこまで考えてるだろ)

 

 

 いつまでもこんな事をさせてる訳にもいかないし……と、半ばやけになって手を掴んだ。

 

 

「腹すいたから、休憩ついでに何か食べるぞ」

 

「え、私は疲れてませんけど……ってアキさん、これ、手を繋ぐじゃなくて引っ張ってるだけですよ!」

 

「昔から引っ張ってる、とか言ってたじゃん?」

 

「むむ、意味が違いますっ!」

 

 

 そう言われたって、まだ覚悟ができてないうちは勘弁してほしい。

 

 誤魔化しながら目に入った喫茶店へ直行。

この時点で心拍数、結構ヤバかったりする。手から伝わる感触的に。

 

 琥珀に返事を返さないまま、迎えるウェイトレスに二名ですと伝えて壁際の席へ座った。

 渋々といった態度で琥珀も対面の席に腰をかける。……このままだと、説教くらいそうだな。

 

 

「さて、何食べるよ? 今日は奢るぞ」

 

「まずは話題の逸らし方から文句を言いますね」

 

「すみません。謝るから怒らないで下さい」

 

 

 本気で怒ってるでないにしろ、機嫌の傾いている琥珀に今日一日主導権を取られそうな雰囲気。

 

しかし、今日の名目は魔術師捜索というシリアスなもの。

 観光はあくまで弓塚のついでであるため、琥珀もそう強くは言えないはず。

 

 

 

 

「―――ごめん藤乃、待たしちゃった?」

 

 

 と、今後の展開を琥珀と睨みあっている所に聞こえる第三者の声。

 その人影は意外とすぐ近くにあり、よく見るとテーブルにはその人の片手が置かれている。

 

 

「あ、秋葉様?」

 

「え……もしかして人違い?」

 

 

 二人の女性の呟き声で、止まっていた思考が回り始めた。

 

 

「す、すみません、お邪魔しました!」

 

 

 慌てて頭を下げて去っていく女の子。

 

 お邪魔しましたってのは、こちらがデート中とか思ったのかもしれない。

喫茶店に若い男と女で入って顔を合わせていたら、そう取るのは普通だろう。いや、今はそんな事はどうでもいいんだ。

 

 

「―――ちょ、待ってくれ!」

 

 

 見失う前に急いで呼び止める。

 呼ばれた理由がわからない女の子は、それでも一応、足を止めて振り返ってくれた。

 

 

 顔を見て、心臓が高鳴る。

 さきの琥珀の時とは違う、悪い意味で。

 

 

「あの……何か?」

 

 

 怪訝な顔をしてこちらを、正確には呼び止めた俺を見つめる顔は間違いなく……黒桐鮮花。

 空の境界を担う一人。綺麗な黒髪なんて、うちの秋葉とよく似ている。

 

 

「い、いきなり呼び止めて悪い。少し、聞きたい事があって……」

 

 

 本当は、原作キャラとの関わり合いはあまり持ちたくない。

 魅力ある人たちばかりだが、正直厄介事に巻き込まれるのも少なくないと思うから。

 

 

 だけど、呼び止めないわけにはいかなかった。

 考える前に、身体が、口が動いてしまうほどの衝撃。

 

 

 

 

「……アキ、さん?」

 

 

 琥珀の声がやけに遠くに聞こえる。

 

 

 

 

 空の境界は月姫より前の物語。

 だから、黒桐幹也や両義式は二十過ぎ、鮮花だって大学生活を楽しんでる頃だろう。

 

 

 

 

 ―――そう、目の前にいる女の子が黒桐鮮花ではおかしいんだ。

 

だって……どう見ても原作より幼い感じで、中学生くらいにしか見えないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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アキと琥珀のターン。そしてさっちんはしばらくフェードアウトです。代わりに鮮花ktkr