*
魔術回路の七割を強化に、二割を治癒に割き、一足の元に懐に跳び込む。
「――っ!?」
「慣れてませんから――加減は出来ませんよ、ランサー!!」
荒れ狂う魔力を腕に乗せて叩きつけた。
槍で受け止めたランサーの身体が宙に浮き、拳圧に軋む音が鳴る。
「ぐっ……野郎っ!」
追撃を掛けるシエルから瞬時に距離を取り、間合いを確保するランサー。
神速の連撃が、シエルを襲う。
拳で迎え撃つも、逸らしきれない切っ先が身体を切り裂く。
だが、傷付いた矢先に癒される傷口。
莫大な魔力が、槍の呪いを上回り強引に傷を塞いでいく。
「まだ……まだまだですっ!」
シエルの突然の変容にも、ランサーは初撃を許したのみに対応し切る。
迫る槍を叩き落とし前進するシエルを、しかし距離を詰めさせない。
剣術三倍段。
得物のリーチ差から為る不利を覆すには、三倍の段位を要するとされた言葉。
槍を構えるランサーに対し、シエルは無手。
如何に肉体を超人の域に押し上げようとも、シエルの劣勢は変わらない。
――もっと速く、もっと熱く!!
身体を鋼鉄に作り変え、放つ拳は雷の如く。
崩壊する肉体、焼き切れる神経。
それでも英霊に届くには、もう一つの壁がある。
ランサーの槍がテンポを増す。
その槍捌きは天下一。
同等に並んだかに見えたスペックも、技量の前に押し返される。
「獣になれば噛みつけるってか! 甘過ぎるぜっ!!」
「――がっ」
二撃。
真紅の刃がシエルの肩を穿ち、頬を削ぐ。
極限まで高めた動体視力。
反射の域は既に相手を超えている。
だが、追い付かない。
目まぐるしく変わる光景に、シエルはただ本能で拳を突き出すだけ。
戦士としての読み合い、駆け引きに、シエルの思考が間に合わない。
故に、それが戦士と獣の越えられない一線。
「――忌々しい肉体。……ですがっ!」
出来ない筈は無い。
これだけ人間を凌駕した身体を持ちながら、その程度を成せない訳が無い。
蛇に見染められた、運命を狂わした己の器。
それでも――
「彼女が受け入れたのであれば、私だって――!」
忌避する心を振り切り、砕く。
脳内に魔力を流し込む。
思考回路を活性化させ、情報の処理速度、絶対量を増大させる。
「この程度の槍捌きっ!」
「なっ、避け切るか!?」
神経系を極限まで強化させて得た超反射能力。
その速度域に、シエルの思考が到達して並び立つ。
本能のみで対峙する獣としてではなく、
「貴方の槍――見切りました!!」
神速の打ち込みを予測し、視認し、その全てを拳で弾く。
――――思考と反射の融合。
戦士として、槍を極めた英雄と実力を拮抗させる。
「――ちっ! 全て防ぐか!」
「ランサー、覚悟っ!!」
槍の動きに合わせ、姿勢を屈め駆けるシエル。
顔面に放たれた刃を紙一重で避けると同時、拳を返した。
咄嗟に肩で防御するランサー。
その顔が歪になり、紅い瞳が一層に輝く。
「ハッ――上等っ!!」
体躯が盛り上がる。
獰猛な牙をついに剥き出し、ランサーの気が膨れていく。
騎士としての槍捌きに相乗されるのは、猛獣の如き荒々しさ。
それをシエルは、熱くなる身体で迎え撃つ。
上限など無い様に更なる速度を伴う刃。
高速詠唱、数紋魔術を重ねてシエルは流れを引き寄せる。
撒き上がるのは散らばっていた聖書の頁。
途端に攻防を繰り返す両者を中心に、竜巻に似た陣を作り上げた。
「こいつは――結界か!?」
「貴方相手では目暗ましでしょうが……っ」
「解ってんじゃねぇか、ならよっ!」
聖書は刃へと形を変え、全方から標的へと襲いかかる。
対魔力を備えたランサーに対し、エネルギー体のまま放った所で意味は無い。
ならばと、シエルが抗したのは形態変化。
だが、
「ボケてんじゃねぇぞ、魔術師っ!」
一振り。
矢避けの加護を纏う英霊に、この程度の射撃物では届かない。
もちろん、シエルとて承知の上だろう。
だからこそ、狙うのはこの直後。
ランサーの正面から消えるシエル。
囲む台風から刃を抜き取り、上空から一刀の元に斬り付けた。
「見えてんだよっ!!」
ランサーの瞳が、シエルを完全に捉える。
黒鍵と交差する様に突き出されたその切っ先は、見事にシエルの頭部を穿ち――
「――何っ!?」
頭部を貫かれたシエルの肉体が、紙切れへと変わり果てる。
舞い散るのは聖書。
幻覚にしては余りに質量を感じさせたそれに、ランサーの思考が一瞬固まり、
「――聖書を用いた分身体か!!」
「だから目暗ましと言ったでしょう、ランサー!!」
発せられる声は真下から。
高速で繰り出された水面蹴りに、見事に足を払われるランサー。
保てなくなったバランスは、ランサーの背を大地へと倒し打ちつけた。
瞬間、闘気が膨れ上がる。
「――ッ!」
「逃がしません!!」
地に付いたランサー目掛けて、シエルの身体が捻られる。
劈掛拳の技の一つ。
気血を送り硬質化させた手刀が、上方から円を描いて敵を容赦なく叩き潰す!
「“烏龍盤打”――――っ!!」
地面が揺れ、盛大に割れる。
並みの生物なら容易に粉砕するその一撃。
「――ふぅ、どんな身体してんだよ、全く」
「ちっ……」
間一髪、跳び退いたランサーは五体満足の状態で冷や汗と共に笑みを浮かべた。
驚異的な回避力に、シエルの打撃は僅かに脇腹を掠っただけ。
もっとも、ランサーのその部位は焼き焦げていたため、多少の損傷は与えられたのだが。
ランサーの表情は、喜悦。
己が負った怪我を見て、さも満たされたかの様に口を曲げる。
「……いいねぇ。これだ、これを味わいたかったんだよ、俺は」
「……」
小さく呟くランサーに、シエルは今一度構え直す。
戦闘狂。
彼らのずば抜けて厄介な所は、何よりも疲れを知らない事。
興奮状態が生み出す異常なアドレナリンの分泌に、狂った様に暴れ回るその姿。
肉体を極限まで酷使させて戦うシエルは、短期決戦しか臨めない。
「ここんとこ欲求不満でな。昨夜にしたって、あれじゃ決闘には程遠い。
しかしまぁ……今の姉ちゃんなら、貫き甲斐があるってもんよっ!」
「本当に戦いが好きなのですね、貴方は」
「荒れた時代に生きたからな。
あんたは好きじゃねぇのか? 命を懸けた戦いって奴をさ」
「私は平和主義者ですから」
全身に膨大な魔力を漲らしながら、そう口にするシエルがおかしかったのか。
ランサーは目を丸くして声を押し殺す。
「くくっ、それにしちゃそこら魔術師の百倍は手応えがあらぁ。
そんな奴が平和を語るのは……何だ、将来はお花屋かケーキ屋さんってか?」
「な、何でもいいでしょう! 貴方には関係ありません!」
「……図星かよ」
イラついたシエルは刃を飛ばし、苦笑するランサーが軽く弾く。
それが合図。
二人の間に、これ以上の無駄話だと。
「身体が疼いてんだ。今度は間違って殺しちまうかもしれねぇが……」
「ご自由に。ですが、手加減して敵う程安いつもりはありませんよ?」
「ハッ、いい女だぜ、あんた!!」
叫び声に乗せ、再び放たれた英雄の連撃。
それにシエルも、全身全霊を持ってして対抗した。
今のランサーに加減は無い。
シエルを好敵手と認めた上での、騎士としての最大の賛辞。
繰り出される刺突は、シエルの身体を削っていき。
間合いを詰めた刹那に打ち込まれる打撃は、ランサーの容貌を歪ませる。
英霊と化け物の、渾身の打ち合い。
――だが、時間が無い。
接戦に見えるこの勝負。
しかし形勢は、次第にシエルを追い詰めていく。
瞬時に治癒される傷。
英霊を上回る超反応、オーバースペック。
それでも――擦り減る魂までは、どうしようもないのだから。
「――くらいなっ!!」
「かはっ……!」
動きの鈍った一瞬。
その隙に、ランサーの蹴りが炸裂する。
迫った間合いを、大きく離されたその一打。
それは、ランサーが構えを取るに十分な時間を稼がれる。
「行くぜ……振るえ、“槍術・初の槌”――――!!」
気迫に満ちた一撃がシエルを襲う。
蹴り飛ばされ、よろけた所に放たれた真紅の刃。
回避、薙ぎ、高速に巡る思考の中――決断する。
このまま打ち合ったとしても決定打は入らない。
――ならばっ!
「ハアァッッ――!!」
「勝負です!!」
鬼気迫るランサーに、極限の集中力を持って応えるシエル。
顔面を刺し貫く寸前に、両腕に魔力を伝い迸らせる。
そして――白羽取り。
超反射で切っ先を見切り、呪われた刃を掴み取った。
――筈だった。
だが、その一撃はこれまで以上に速く、力強く――
「――――ぐっ」
受け止めきれなかった刃が、シエルの顔面に突き刺さった。
「……く、咥えやがったか!?」
「ふぃ、ふぃりふぃりでふね……」
負傷したのは喉奥を少々。
両手と口で抑えつけた真紅の槍に、今度はシエルの目が光る。
その瞳の奥に宿る力。
ランサーがそれに警戒したと同時、上空から猛烈な風切り音が耳に届く。
「――チッ、こ、こいつは!」
「行きますよ、セブン!!」
「了解です、マスター!」
咄嗟に跳んで下がるランサー。
ワンテンポ遅れて、その場に爆発音が轟き響いた。
大地に突き刺さったのは漆黒の鈍器。
すぐさま引き抜いたシエルは、その先にある銀色の杭をランサー目掛けて突き立てる。
振り回される剛腕。
追いかけ様に横薙ぎに放たれたそれを、ランサーは槍を盾代わりにして防いで見せた。
しかし、追撃はこれで終わらない。
「――――カルヴァリアっ」
競り合った得物。
シエルは右足をパイルバンカーの先端に置き、槍を挟むようにして力を込める。
その行為の意図。
それを考える間もなく、ランサーの心臓に――
「デスペアアアァア――――ッッ!!」
「ぐっ、おおぉおっ!!」
備え付けてあった杭が連続して発射される。
爆風、破裂音を轟然と鳴らしながら、ランサーを貫き抜かんと打ち出された。
一撃でも貰えば昇天するそれを、間一髪、ランサーは転がって避け切った。
――が、その手に真紅の得物は無い。
咄嗟の判断。
槍を手放さなければ、瞬間的に身を逸らす事は不可能であった。
そして、それこそがシエルの狙い。
足に挟めたランサーの槍を遠くに蹴り飛ばすと、一直線に敵へと向かう。
槍の英霊とて、肝心の武器がなければ戦闘力は極端に落ちる。
損壊する肉体に喝を入れ、残された数分に全てを懸ける。
打ち抜くのは人体の急所。
リバーブローに次いで、ショートアッパーが綺麗に入り、ランサーの頭が揺れた。
「て――めぇええっ!!」
「ぐふっ!?」
仰け反りながらも反撃するランサー。
膝蹴りがシエルの鳩尾を穿ち、シエルの身体がくの字に折れ曲がる。
「くっ……負ける訳にはっ!」
「ハッ、喧嘩で勝たせる気はねぇぜ!」
互いに洗練された技術は捨て、肉体言語で語り合う。
拳の応酬であれば、ランサーが不利。
だが、シエルの身体も朽ち始めている。
先程までなら無手のランサーを圧倒出来たスペック差も、今では大幅に低下。
超反射、思考速度共に、全開の六割まで落ち込んでいた。
故に互角。
避けるよりも相手にダメージを。
殴られたら殴り返す、力を込めて振り下ろす。
――勝敗は、根性で決まる。
「さっさと倒れちまえよ、おらっ!」
「ま、まだ……たああぁあっ!!」
「金的!?」
「そして目潰しっ!」
身が焼かれるのを感じながら、シエルは戦う。
マウントポジションを取られた瞬間、地面を砕き陥没させて脱出。
即座にドロップキックを放つ――が、ランサーに足を掴まれ、勢いそのまま見事なジャイアントスイングを返される。
頭部を強打。
朦朧とする視界。
後は、意地の張り合いだった。
「――ああぁあっ!」
「へっ、ま、まだやる気たぁ……いい気合いだぜ、こら!」
両者の口は血と土砂に塗れ、目蓋は青紫に腫れ上がり。
それでも尚、前に進む。
「そういやそうだったな。こいつは競技でも戦でもねぇ。
――――喧嘩だ喧嘩っ! とことんやんぞっ!!」
「言われなくとも……最初から退く気はありません!」
髪を掻き上げ、紅く濁った唾を吐き出すランサー。
シエルも腰を気力で持ち上げ、全身に隈なく魔力を押し込む。
駆ける。
握り締められた拳骨が、鈍い音を立ててぶつかり合った。
――――――――
――そして、
死闘を制したのは青い槍兵。
荒い息を吐きながらも、地に付いた足は未だ身体を支えている。
その眼下に倒れたシエルを、熱を帯びた視線で見やる。
文字通り、彼女は魂、肉体を擦り減らして英霊に挑んだ。
唯一敗因を上げるのであれば――戦闘スタイル。
この戦い方は、シエルのメインアームではなかったのだから。
「――くっ」
「……」
徐に勝者が動く。
離れた場所に飛ばされていた己の槍を、掴み――
「手向けだ。受け取りな」
ふらつく身体で、ランサーは槍を構えた。
その表情は喧嘩に熱狂していた先刻とは打って変わり、真摯な瞳でシエルを見据える。
禍々しい魔力が、槍の切っ先を中心として渦を巻く。
それは――宝具の解放。
「殺す気はなかったが、ここまでやられちゃ話は別だ。
……嘗めて悪かったな」
あんたは正真正銘の“化け物”だよ。
そう口にするランサーに、シエルは仰向けになったまま微妙な面持ちを形作る。
「……うぅん、あ、余り嬉しい言葉ではありませんね」
「何だ? 化け物と認められたいんじゃなかったのか?」
自分を“化け物”と受け入れているさつき。
彼女に負けじと、シエル自身も皮肉で無く正面から受け止めたかっただけである。
今思うと、他人がどう認識するかは二の次で構わない気がしてきたが――
「ともあれ……これで終わりだ」
「……」
殺気が、死の気配が膨れ上がる。
ここで死ぬ訳にはいかない。
“化け物”と受容したシエルは、まだ彼女らの行き着く先を見ていない。
何をすべきか定まらない――だからこそ、生き続けなければならないのだ。
記憶の貯蔵庫から、早急に検索し魔術を探す。
この状態、状況でも逃れる事の出来る手法。
魔術協会における最上位に匹敵するシエルであれば、決して不可能とは限らない。
――――しかし、ここから状況は覆る。
「待ちなさい、ランサー……いえ、クー・フーリン!」
木々の間から響く女性の声。
振り向いた先には、スーツを着込んだバゼットの姿。
その右手には群青色の球体が、拳の上で浮きながらに魔力光を発している。
バゼットの瞳は、ランサーだけを捉えていた。
「……」
「この“斬り抉る戦神の剣”の効果は貴方にも教えた筈です。
……槍を引きなさい、ランサー」
睨み付ける。
が、バゼットの額には既に玉の様な汗が幾つも見れた。
――無理だ。
シエルを追って来たのか、この冬木を纏う陰鬱な気配を辿ったのかは分からない。
ただ、今この瞬間に英霊と対峙している事は紛れも無い事実。
そして昏睡から目覚めたばかりの彼女に、高位の魔術が扱える筈も無いのだ。
その拳に浮かばせた物は、ハッタリ以外の何物でもない。
だと言うのに、ランサーがシエルに放った言葉は、
「……ちっ、行きな」
「ラ、ランサー?」
恐れている訳ではない。
ランサーの性格を考えれば、例え脅しが本物であったとしても引き下がる男では無いのだから。
ならば、何故。
疑問を浮かべるのも束の間、これを好機にシエルは身を早々に下がらせる。
理由はどうあれ、逃げれるのであれば有り難い。
警戒を解かずバゼットと目線を見合わせると、そのままゆっくりと後退していく。
替えの利かない第七聖典だけを拾い上げ、法衣に戻す。
そうして、悲鳴を上げる肉体をもう少しだけ酷使して――シエルはバゼットと共にその場を去った。
「……私は洋館に戻ります、バゼットさん」
「付き合いましょう。良ければ治療を手伝わせて欲しい……その、貴女にはとても大きな借りがありますし」
身体を引き摺るシエルに、バゼットはよろけながらも肩を貸す。
「それにしても酷い怪我だ。最低三日は要しますね、これは」
半ば称える様な口調。
英霊と渡り合った事に驚愕しているのか、バゼットの口調は少し明るい。
だが、それに対して返すシエルの表情は苦笑い。
「治癒に当てるのは夕方までです。
取り敢えず今から使い魔を飛ばし……出来れば、夕方には動きましょう」
――――会いたい人達がいるんです。
そう言いながら首を振り、シエルは己の意趣をバゼットへ伝えた。
憑依in月姫no外伝
第三十二話
*
マフラーに顔を埋めながら、肩に乗った黒猫を優しく撫でる。
有間の玄関を抜けて外へと顔を出した少年――――志貴は、屋根に向けて声を掛けた。
「おーい、アルクェイド! 見つかったか?」
「ん、全然ね。やっぱりいないんじゃないの? 叔母様も秘密にしてたんだし」
「……旅行、って訳じゃなさそうだよなぁ」
呼び掛けに応えて志貴の隣へと降り立ったのは、白き吸血鬼。
その言葉を聞いて、志貴の肩ががくりと下がる。
耳元の猫が、慰める様に小さく鳴いた。
「そうなると……やっぱり、秋葉が行った冬木って所かな?」
「割とそこに集まってるんじゃない。
だって妹も使用人も女顔も、おまけにあの吸血鬼だっていないじゃない」
頷く志貴。
寒天の下、長く離れた己の家族へと想いを馳せる。
三咲町に戻った志貴に、しかし迎える者達はいなかった。
否、都古ちゃんや有間の方は迎えてくれたが、本当に会いたかった人達の姿はなかったのだ。
遠野の屋敷は、崩壊してから一年経つと言うのに未だ土台の建築中。
離れにも生活の跡が無く、不思議に思い有間を訪ねてみれば――
「秋葉の奴、仕事なのか?」
「私に聞かないでよ。そもそも、志貴の妹とまともな会話なんてした事ないんだから」
つい先日に、秋葉は翡翠を連れて関西の方へと向かったらしい。
そう、有間の叔母さんは何となく機嫌を良くして志貴に教えてくれた。
ただ、アキハや翡翠の姉の琥珀に限っては、口を濁していたけれど。
「……行くの?」
「ん」
志貴の腕を掴んでアルクェイドは囁く。
白い吐息を、口から漏らして。
「そう……だね。叔母さんがアキ達の事を隠しているのも気になるし、案外、厄介事に巻き込まれてるかもしれないだろ? 魔は魔を引き寄せるって言うしさ」
「あぁ〜、そう言えば、女顔って志貴と同じ退魔だったわね」
「女顔じゃなくてアキだってば……」
からかう様に笑うアルクェイドに、溜め息を吐く志貴。
それに、と頬を掻いて言葉を続けた。
「ここにいると……ほら、ね」
「ブルーに見つかっちゃうから、でしょ?」
「一応、必要な魔術は全て習得出来た筈なんだけど……」
「そうね。だいたいブルーってば攻性魔術以外は並みなんだから、これ以上志貴に教えられる事なんて無いのに……あー、何か腹が立ってきたわ」
「あの、先生がいない時くらいゆっくりさせて下さいよ、アルクェイドさん」
結構真剣な志貴の願いに、キスしたら考えてあげるーと甘えた声を発するお姫様。
仕方ないので、志貴はキスをする。
――レンに向けて。
「そ、そんな馬鹿にゃああぁああ――――!!」
「煩いぞ、もう」
「私によ、私に!
と言うか、レンもこういう時だけ人型に戻ってるんじゃないわよ! いつも志貴の肩とか頭に乗ってる癖にぃ!!」
少々目立ちながら、三人は駅の方角へと足を運ぶ。
一回り大きくなって三咲へと帰って来た殺人貴。
家族に会うため、加えて青子の手から逃れる為――
志貴は再び、三咲の外へと踏み出した。
タイトル前後の文量が間違っている気がしなくもない。
聖杯戦争も中盤終えて終盤へ。今回は合流フラグの話でした。