「さつきぃ、好きだあぁぁあぁ!! お前が欲しいいいいぃ!!」

 

「わぁ、す、すごい。これが魅了の魔眼」

 

「―――ってなに恥ずかしいこと言わせてんだよっ!!」

 

 

 

 

 

憑依in月姫no外伝

第二話

 

 

 

 

 

「一つ思ったんだが、前回のオチって明らかにおかしいよな?」

 

 

 準備運動を始める弓塚を縁側に座って眺めながら、そんな事を呟く。

 

 

「えっと……琥珀ちゃんの服のこと?」

 

「和服だけなら下着は必要ない。けど、いかに琥珀と言えど寝る時まで和服じゃないだろ」

 

 

 私服がなくてもパジャマがあればいいじゃない、といった考えに至ったので、弓塚に突っ込んでみた。

 

結局、琥珀の私服を選ぶついでに弓塚がいくつか下着の方も選別していたので、今となってはあまり関係ないのだが……単に身体を動かすことができずに暇だったので。

まだ怪我治ってないしね、俺。

 

 

「ん〜、持っている数が少なかったとかじゃない?」

 

「まぁ、そういう解釈もありだが……」

 

「それに、あんまり女の子のそういう部分を探るのはヤボってやつだよ、アキ君!

どこかの王様も言ってたじゃん、確か……」

 

「何、気にする事はない 川´_`)?」

 

「そう、それ! えへへ、ゲームから学ぶ事も多いよね」

 

 

 つい最近やったゲームの事を自慢げに話す弓塚。

 

吸血鬼は人間と比べて睡眠はそれほど必要ない。というか弓塚曰く、ぶっちゃけ寝なくてもいいらしい。

そんな訳で、日中に出てこられない弓塚の暇潰しとして、事件が終わってからはPSPDS、ついでに中古のテレビを引っ張ってきてPS2で日夜問わず遊んでいる。

 

 

「何というニート……」

 

「ニ、ニートじゃないよ! ちゃんと修行してるじゃん。今だって、ほら」

 

「俺が苦労して部屋から連れて来たんだろうが!」

 

 

夜になれば一緒に修行していたとは言っても、日中ゴロゴロとゲームをしていた姿を思い浮かべるとそいつは中々腹が立つ。

こちらが秋葉の問題であれこれ忙しかったため余計に。

 

 

「ニートの称号が嫌なら頑張って修行しろよ、弓塚」

 

「……あれ、別に修行は関係なくない?」

 

「取りあえず、ここ一週間で能力にも大分慣れた。よって、今日からは魔力も考えていこうと思う」

 

 

 魔力、という言葉に弓塚は眉を寄せる。

 

 

「何か難しそう。そもそも魔力って言われても、わたしよくわからないよ?」

 

「いや、お前だって能力を発動するのに使ってると思うぞ」         

 

「えっと……“魔術殺し”だっけ?」                         

 

 

 右手をかざし、力を込める仕草。

 見た目は変わらないが、その手は魔術を無効化する武器へと変わっている。

 

 能力といっても、弓塚のソレは完全なものではない。固有結界の枯渇庭園こそが、弓塚の真の能力だ。

 

 

……これについて話していると時々、弓塚がどっちの能力のことを言っているか混乱するため、元ネタから取って“魔術殺し(マジックブレイカー)”と二人で考えて命名しておいた。

 

 魔力を使って魔力を枯渇させるってのはおかしな話で、正直こっちも本当に弓塚が魔力を使っているのかわからない。それらしき感じはするんだけどな。

 

 

(しかし、固有結界を使えるのは間違いないんだ)

 

 

 最も魔法に近いと言われる大魔術を、何のエネルギーも用いずに発動している筈は無い。

 

魔力か、またはそれに代わるものか。

 弓塚の内に巡っているそれらは、きっと固有結界以外にも形を変えて扱う事は可能であろう。

 

 

「あれ? 魔力を使ってるってことは、もしかしてわたしって魔術師なの?」

 

「いや、魔力と決まった訳じゃないんだが……どちらにせよ、魔術師にはならないぞ。

弓塚のは能力であって魔術じゃない。実際、弓塚は発動する時に呪文は唱えてないだろ」

 

「えっと……魔術には呪文が必要だけど、能力だったら必要ないって事?」

 

「そう。それ以外にも何か違いがあるかもしれないけどな」

 

 

メルブラで参戦していただけマシだが、やっぱり弓塚ルートが作られていないのは痛い。

魔眼を使っているから力の流れを何となく感じ取れるだけで、魔術についての基礎知識は持っていないからな……ほんと、本か何か入手できればいいんだが。

 

 

「身体の動かし方と魔術殺しには慣れたんだ。

だから次は体内にある力を使って……取りあえず何かしてみてくれ」

 

「うわっ、すごい投げやり!?」

 

「仕方ないだろ! こっちだってお前の身体を知り尽くしてるわけじゃないんだよっ!」

 

 

 むしろ、固有結界の存在をアドバイスしたのだから感謝して欲しいぐらいである。

 

 

「身体を知り尽くしてる……何か卑猥」

 

「って赤くなるな!」

 

 

 突っ込んだところで我にかえる。

いかんいかん、ボケに付き合っていたら話が進まない。

 

 

「……まぁ、結局やることは特に今までと変わらないんだが、力の流れを意識してみてくれって事だ。

上手くいけば、そのエネルギーを使って身体強化ができるかもしれないし」

 

「流れかぁ……うぅ〜、そう言われても」

 

「内にある力を外に放出する感じでやってみてくれないか?

わかりにくくて悪いが、それでダメだったらまた考える」

 

「……わかった。やってみるよ」

 

 

 頷いて、魔力、魔力と繰り返しながら、弓塚は離れたところで身体を動かし始めた。

 拳を放ったり駆けたりして、言われた通りに身体の魔力へ注意を向ける。

 

 その動きは見ているだけで鳥肌が立つくらい圧倒的。

薄暗い中、響く風切り音が気持ちいい。

 

 

 けど、それはいつも通りだ。

 右ストレートの迫力も、闇を駆け抜ける速度も変わっていない。

 

 

「できる、とは思うんだが……」

 

 

 弓塚は強い。並外れた吸血鬼のポテンシャルを持ち、成長すれば固有結界をも扱える死徒と化す。

 故に、設定では二十七祖の候補に入る程。現に、この前はその能力を駆使してシエルを打ち負かした。

 

 

 しかし、疑問がある。

 確かに弓塚は強いが、それでも二十七祖の候補に選ばれる程なのかと。

 

 

 ……まぁ、固有結界を扱える時点で強いんだけどね。

大気に存在するマナを枯渇させるから、魔力を用いた攻撃とかは無効化できるっぽいし。

 

例えて言えば、固有結界の枯渇庭園は腑海林アインナッシュの“マナの独占”、魔術殺しの方はディルムッドの“ゲイジャルグ”に似た効果だろう。

それに加えてライダー……メデューサも使っていた“怪力”スキルを持っているので、魔術師相手なら楽勝で勝てる。

 

 

 ただ、現存する二十七祖らと比べると今一つ物足りなく思える。

二十七祖の能力は一部の奴らしか知らないが、どいつもこいつも一筋縄ではいかない能力持ちで、容易に攻略できそうな奴は見当たらない。

 

 その点、弓塚の枯渇庭園は魔術師自身から魔力を奪うわけではなく、あくまで空間。

 そうなると、志貴のように魔力を伴った攻撃以外を扱える者たちを集めれば、案外打倒できそうな気がしてならないのだ。

 

 

 

 つまり、枯渇庭園は確かに弓塚の切り札であるが、やっぱり弓塚が二十七祖たる所以は身体能力かなぁと思っている。

 枯渇庭園が相手を選ぶ能力なので、それをカバーできる程の身体能力がなければ二十七祖なんてやってられんし。

 

 

 理想は“怪力”のスキルに加えてセイバーの様な“魔力放出”系のスキル。

 

 魔力放出の様な身体強化は限定されたスキルかもしれないが、魔術師たちがそれをやらないのは一工程おいてでも魔術で身体強化した方が効率的だからであろう。

アーチャーやランサーも同じく、魔力の保有量が多い、またはそれに特化していない限りは扱われない代物……と都合のいいように解釈してみる。

 

 

 ―――っていうか、そもそも固有結界を展開できるようになる修行方法なんて知らないから教えようがない。

 教えようがないから、強くなるには身体能力面を鍛えるしかないわけで、身体強化云々は苦し紛れで思い付いた産物である。

 

 

「……一番の理想は、隠れて静かに暮らしていける事なんだけど」

 

 

 弓塚の能力についてあれこれ考えているが、やはり何事もなければそれに越したことはない。

 俺弱いから、巻き込まれたらすぐ死んじゃうし。

 

 ほんと、猟奇殺人の時は弓塚がいてくれて非常に助かったが、事件が終わった今では爆弾抱えている気分である。

 

 

志貴は高一のため、タタリまではまだ一年と少し。

 

 原作と違い、歌月十夜は起きないだろう。

志貴が三咲町にいないのだから、イベントが発生するはずもない。

 

レンどうなるのさ? と思ったが、この世界の志貴なら心配いらないかもしれん。

なんたってストライクゾーンに入ってるし。

 

 

(オシリスの砂が終わるまでは、少なくとも弓塚が外部のものから襲われる事はないと考えて……)

 

 

 あと二年ちょいは、何を急がなくてもいいと思いたい。

 昼間は琥珀や翡翠と雑談したり将来のために勉強したりしながら少しずつ身近な問題を解決していって、日が沈んだらこうして弓塚と修行する……そんな日常を続けたい。

 

 

「原作終わったら、その後どうなるかわからないからなぁ―――ん?」

 

 

 後ろへ倒れて寝転んだところで、人の気配。

 弓塚も気付いてか、修行を一時中断する。

 

 

「―――あっ、はっけん!!」

 

 

 叫び声とともに、駆けて来る足音。

 何でか知らないけど、向こうから都古ちゃんが現われた。

 

 

「遠野の屋敷って広すぎ。何かがれきの山があったけどあれってもしかして怪獣のしわざ!?」

 

「な、何で都古ちゃんがここにいる!?」

 

「この間、さつきお姉ちゃんとお話したんだ。そしたら特訓してるっていうから」

 

 

 弓塚の方を見ると、頭を掻いて苦笑い状態。笑って誤魔化すとはなんて奴だ。

 

この間……シエルに“鋼の大地”の事を話した日か?

 それ以外に弓塚と都古ちゃんの接点なんて思い付かないし。

 

 

「はいこれ! お姉ちゃん頑張ってると思ったから。

あとアキお兄ちゃんも……悪い当主に追い出されちゃったらしいけど、元気出してね!」

 

 

 差し出されたのは少し形の崩れているおにぎり。すごく……いい子です。

 

 

「ア、アキ君」

 

 

 ふっ、と耳に吐息がかかる。

 

 

「わ、わたし、都古ちゃんに住んでいるところまでは話してないよ?」

 

「言い訳はそれで終わりか、さっちん?」

 

 

 弓塚が耳元まで顔を寄せて話す。

 

 琥珀に聞けばアキハが離れに住んでる事ぐらいはわかるだろ。

加えて、あの時弓塚と一緒にいたんだから、そこから弓塚と一緒に住んでる事も予想できる。……予想できる、よな?

 

 

「とにかく、都古ちゃんに特訓を見られるのは不味い」

 

「だ、だよね。普通に木とか薙ぎ倒しちゃうし……」

 

 

 都古ちゃんから差し入れを受け取る。

 せっかくここまで来たのには申し訳ないが、速やかに退場してもらおう。

 

 

「ありがと、美味しく頂くよ。ところでもう暗いけど、叔母さんにはちゃんと言ってから来た?」

 

「言ってないけど大丈夫! 書き置きしておいたから」

 

 

 全然大丈夫じゃないぞ、それは。

 

 

「み、都古ちゃん、それはお母さんが心配するんじゃないかな?」

 

「そうだな、小学生が書き置き一つでこの時間帯に出かけるのは駄目だろ。

つい最近まで殺人事件が起こってたばかりだし」

 

「で、でも、あたしも特訓したいし……」

 

「昼間に来てくれれば一緒にやってあげるからさ。夕飯もまだだろ? 今日は遅いからもう帰ろう」

 

「う〜……それじゃ今週週の土曜日にまた来る。約束だよ、アキお兄ちゃん!」

 

 

 という訳で、弓塚は留守番させて都古ちゃんを家まで送る事になった。

 わざわざ遠野の屋敷まで来てくれたんだから、このくらいはしなくちゃな。

 

 

 道なりに林を抜けて、崩壊した屋敷が現われる。

 

 

「それにしても、都古ちゃんは離れまで自分一人で来たのか? 道を辿れば迷わないけど、暗くて怖いだろ」

 

「むぅ、確かに迷いそうだったけど、この先にいるってわかってたから怖くなかったもん」

 

「女の子なのに度胸あるな」

 

「家を出た時は不安だったけど、だんだん気配が感じられるようになったんだ」

 

 

 ―――気配、という言葉に引っかかった。

 都古ちゃんは手を繋いだまま、こちらをじっと見つめている。

 

 

「む〜、アキお兄ちゃんは普通なのかな?」

 

「……確認するけど、都古ちゃん、琥珀に俺たちの居場所聞いた?」

 

「うぅん、アキお兄ちゃんが遠野家の人だってのは知ってたから、うちにいないなら屋敷の方かなぁって。あとは勘!」

 

「……そうか。けど、勘だけで動くと危ないから、今度からは自分一人で勝手に出てきちゃ駄目だぞ」

 

「えへへぇ、りょうかい!」

 

 

 特訓仲間が増えたのが嬉しいのか、都古ちゃんは楽しそうに笑っている。

 

 頭上にはいつかと同じ満月が輝いていて、嫌になるくらい綺麗な月夜だ。まだ春だけど。

 

 

「……一緒に特訓は無理かもな」

 

 

 有間を訪れるついでに、琥珀に少しだけ言っておこう。

具体的な話は、明日、弓塚も含めて三人でだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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大雑把な解釈ですが、

・能力(超能力)は生命力そのものを行使する源として扱い、

・魔術はオド・マナを魔術回路で魔力に変換し、行使すると考えています。

 

なので、魔眼持ちの志貴やアキには魔術回路があり、

アルクェイドや弓塚、秋葉や琥珀には魔術回路が無いものとして話を進めています。

7/5 一部修正