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 晩餐会が、始まっていた。


 志貴が目を覚ました時には夏の夕暮れ。日中の蒸し暑さは消え、カーテンをなびかせながら涼しい風がリビングにそよいだ。

 


「あら、兄さん、ようやく起きましたか」

 


 ワイン片手に秋葉が優雅さ漂わせやってきた。今の今までソファに寝そべっていた志貴、寝ぼけ眼のまま秋葉を見つめ、

 


 へべれけになっていないことに安堵した。

 

 

 

 





 

 シオンとさつきと遠野家と

 

 第八話

 

 

 

 

 






「あの泥酔い状態で絡まれると大変だからな。酒豪なのはわかったから、向こうで勝手にラッパ飲みでもしててくれっての、ナイチチだからって毎回構ってられないぜ」


「兄さんっ!!」


「ち、違う今の琥珀さんギャ――――――!!」


「……起きて早々、何をやっているのですか、貴方は」

 


 忍び笑いの忍び足で逃げてく琥珀を押さえながら、シオンが呆れたように言う。


 メイド服ではなくいつもの紫色の軍服らしき格好、さらに秋葉同様、片手にワイングラスを持ってる辺りくつろいでいる様子が見える。

 


「あ、シオン! 良かった、無事だったのか」

 


 見ると同時に駆けつける志貴。シオンが少し赤くなるのも気付かず、ほっと胸を撫で下ろす。

 


「途中から記憶がなくてさ、気づいたらここに寝てたんだ。秋葉達の顔色を見れば大事にならなかったってのはわかったけど……まあ、見たところ怪我もないようで良かったよ」


「そ、そうですか。心配をお掛けしてすみません。


 ……というか志貴、その、覚えてないのですか?」


「ん、何が?」


「……いえ、何でもありません。多分、貴方が覚えていない方が厄介にならずに済むのでしょう、これは私の胸にしまっておきます」


「何だよ、変なシオン。そういえば翡翠と弓塚さんは? 今どうしてる?」


「あはっ志貴さん、翡翠ちゃんと弓塚さんなら、」

 


 シオンに捕まえられてる琥珀が嬉しそうに指をさす。

 


「ですから、志貴様は梅サンドが好物なのです」


「へえ、志貴くん、酸っぱいものとか苦手そうなのに、意外だね」


「そうなのです、見かけによらず志貴様は意外なのです」


「梅サンドかぁ、作り方今度教えてくれない?」


「はい、では明日にでも一緒に作りましょう。この翡翠が志貴様に自信を持って出せる唯一の料理ですから、私も久々に腕が振るえます」

 


 視線の先には仲睦まじく話す二人がいた。なかなか面白い話をしているなあと、志貴も震える。

 


「シオン、琥珀さん、三人で明日どっかに出かけないか?」

 


 遠くで相変わらずに飲んでいる秋葉を横目に、志貴は冷や汗垂らして前の二人に提案。二十四時間以内に胃が壊れるとわかってはさすがの志貴もボケっとしてはいられなかった。

 


 だが、その誘いに二人は渋い顔をしたまま乗らない。

 


「志貴、その事なのですが貴方はもう少し周りを見た方がいい。私に構う暇があったらいつも世話になっているものへの恩返しを勧めます」


「そうですよ、志貴さん。直後に三人でデートだなんて、いくらなんでも懲りなさすぎです」


「え、べ、別にデートとかじゃなくて……そ、そう! シオンと弓塚さんの歓迎会とかどうかなあと思って」

 


 しどろもどろに弁解する志貴に、シオンが溜息交じりに突っ込む。

 


「しっかりして下さい。今、私とさつきの歓迎会を秋葉達が開いてくれたのではありませんか。なぜこうして皆でお酒を飲んでいると思ってるんです?」

 


 言われてみて、志貴ははたと気づく。テーブルの上に並べられた豪華な食事や、秋葉が次々に空にする大吟醸。なるほど、これは歓迎会でしかない。

 


「あー、だからシオンも弓塚さんも普段着に戻ってるんだ」


「いえ、私とさつきはメイド服をやめただけです。今日の戦闘でわかったことなのですが、ああいった動きにくい格好では今回のような緊急時に対応できなくなると考えまして」


「「ガ―――ン」」

 


 擬音語が口に出た志貴。

 


「……なぜ琥珀までショックを受けるのです?」


「あはっ、私は志貴さんの真似をして見ただけですよ」


「お、俺だって別になんとも……」


「青い顔で言われても説得力ありません。まあ、愚痴を言わずに明日はメイドの翡翠ちゃんに付き合ってあげて下さいな」


「姉さん、明日ではなく今からです」


「ひ、翡翠!?」

 


 志貴の背後にいつの間にか翡翠が立っていた。驚き慌てて飛退こうとするもがっちりと腕が、これもいつも間にか捕まえられている。

 


「え、何で!? というか明日のはずじゃ、」


「ううん、作るのにそんな時間はかからないし、志貴君も今からの方がいいかなって思って。それともやっぱ明日にして、ピクニックにした方がいいかな?」


「う、それもどうだろ……」

 


 結局はどっちも梅サンド介入なので選びようがないのだが。

 


「まあ志貴さん、びしっと覚悟を決めちゃいましょう。アドバイスですがそう言う時は自分を人形だと思うのが味噌です」


「何を必死になっているのがよくわかりませんが……とりあえず頑張ってくださいと言っておきましょう」

 


 間違っても助けてくれそうにない二人。


 しかし如何せん、梅サンドは喰いたくなかった。秋葉は酔ってて頼りにならないが、何とかして誰かの援助を、

 


「―――あれ? そういえば誰か忘れてないか?」

 


 口に出した、その途端。

 

 

 


 三度目の、なかでも一番大きいと思える爆発が起きた。

 

 

 


「……今、何か揺れなかった?」

 


 そろそろ慣れてきた志貴、ゆとりを持って傍らの翡翠に尋ねる。

 


「何か、ではなく間違いなく大爆発です。おそらくは姉さんの部屋から」


「ふぅ、良かった……ってギャ―――!」


「何のんびりしてるんですか、馬鹿なこと言ってると吊るしあげますよ!!」

 


 すでに吊るしあげている秋葉が鬼の剣幕で言う。大爆発なので被害は琥珀の部屋だけに収まらないだろう。書類が、無事か、心配だった。

 


「琥珀、状況は……あれ、琥珀?」

 


 姿が見えない。

 


 と思ったら、血相を変えた琥珀が二階から転がり落ちてきた。

 


「たい、大変です秋葉様!! 都古ちゃんが『食べるもん食べてお腹いっぱいだから、もうお兄ちゃんを連れて帰るー、秋葉怖いし翡翠も危ないし大義名分はばっちりだ―――!』と言って暴れています!」


「そう……原因は?」


「おそらく密か改良中だった“も〜〜〜っと、マキュー
EX”を飲んだせいかと、」


「あんたってやつは―――!!」

 


 強攻撃の脳天踵落としを即座に食らわして、懲りない琥珀を地に沈める。やっぱり犯人は琥珀だった。

 


「まあ、わかりきっていたことですけど。翡翠はここに残って、他の三人は行きますよ!」


「秋葉様、私も行きます!」


「何言ってるの、貴方じゃ……」

 


 止める秋葉を、瓦礫を握り潰すことで説得する。まだまだ効果は健在らしい。

 


「……わかったわ、ならついて来なさい」


「はい」

 


 駆けていく二人を先頭に、志貴含め他の者もついていく。

 




「―――そうだ、その前に」

 


 一つだけ言っておかないと。そう思い出して、志貴は立ち止った。

 


「シオン、弓塚さん」

 


 呼びかけに、止まって振り向く。


 この緊急時になぜ呼び止めるのか、意味がわからない二人はキョトンと、あるいは怪訝な様で志貴を見る。

 


 その表情を可笑しく思いながら、志貴は謝った。

 


「……何か悪いね。こんな騒がしいことばっかりで」

 


 路地裏生活を心配して屋敷に連れてきた、はずなのに二人をあまりゆっくりさせていないばかりか、迷惑をかけてしまっているように思える。


 本末転倒の言葉通り、これではどちらが良かったかわからないぐらいだ。

 

 

 


 志貴の苦笑いで、やっぱり申し訳なさそうな表情に、シオンと、弓塚は一拍間をおいた後、返答する。

 


「志貴、貴方は出鱈目の割に心配症なのですね。ですが、私たちに不満はありません」


「そうそう、騒がしいと煩わしいは違うってやつだね」

 


 つまり、ここで過ごす時間は楽しいということ。


 人権保障なんて言わないけど、前よりずっと落ち着いていられる。

 


 だから、

 

 



 『これからもよろしくお願いします』

 



 礼儀を正して、二人はそろって微笑みながら、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 






 終わり。