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「あれ、有彦さん?」 「どもー、こんちわっす」
玄関前を掃除すること十時。木陰に入りながら適当にやっていた琥珀の前に来客が訪れた。
「珍しいですね、有彦さんがこちらに来るなんて」 「ま、確かにそうっすね」
志貴のクラスメートにして親友? の乾有彦である。
「でも遠野にとっちゃ珍しくもないですよ。毎年、またかって感じの事ですから」
そう言って見せるようにバックを目の前に掲げる。悪戯っぽく笑っているところから、琥珀は何となしに用を察した。 夏休みも残り三日。蝉の鳴き声も短くなる一方だ。
「……宿題、ですか?」 「あれ、いけませんでした?」
琥珀の怪訝な表情に、少し予想外と眉をひそめる。
「いえ、そう言うわけではないんですけど……」
そう言うわけではない、そう言いながらも琥珀の歯切れは非常に悪い。
「有彦さんのご要望には、志貴さん、お答えできないと思います……」
頭上に?マークを浮かべる有彦。 そして、それに答えるように屋敷から叫び声が。
苦笑しながら琥珀は言った。
「―――宿題、終わってないんですよ」
シオンとさつきと遠野家と 『三日前の日』
「よう、遠野! 今だに宿題終わってねえんだってな」
意気揚々と志貴の部屋へ突貫。 志貴が宿題に追われてる構図が楽しいのか、顔を綻ばせて上機嫌だ。
「―――ん?」
しかし、部屋に入った途端にその表情はまた変わる。 何故か?
「……どなたです?」
志貴の隣に、見知らぬ外人美女がいたからだ。
「おおぉ!」
しかも、鞭を持ってるし。
「おおおおぅ!」
そして驚いたことに行方不明で捜索中の弓塚までいた。
「ほえ……あ、あわわわわ!」
弓塚も有彦の視線に気付き、三秒停止。その後、慌ただしく手足をバタつかせてから机の下に隠れるように潜り込む。 その一連の動作で、有彦に弓塚本人と確定させた。
「何故だ……なぜこうも遠野の周りには美女が集まる? 女運最高じゃねえか」
取りあえず弓塚はスルーして、遠野の現状に慄き震える有彦。
「……来て藪から棒に何で頭を抱えてるんだよ、お前は」 「おう、休暇中に女垂らし度増しやがって。宿題やってないのはそれでウハウハしてたせいか?」 「……一発殴っていいか?」
有彦が乗り気で構えると同時、志貴がばっと席を立つ。
「―――志貴、友人と遊ぶのは構いませんけど、このままだと必然的に昼食は抜くことになります」
掛けられた時計を見ながら、教官宜しくシオンは言う。 志貴の動きが、友人とのじゃれ合いと昼食の有無を天秤にかけてピタリと止まる。
「それで宜しいのでしたら、5分間の休憩を与えますが?」 「すみません、勉強続けます」
志貴はあっさりと、主人に従順な子犬のように頭を垂れながら席へ戻った。 乗り気だった有彦も志貴の置かれた状況を察知してか先ほどまでの羨む目線は消え、哀れむ色を瞳に映す。
視線を逸らすと、何だが弓塚も気まずそうだった。
「……まあ何だ、これからは宿題を計画的にやっとけよ」
一言、それだけ言っておいた。 有彦にしては文句半分励まし半分の言葉なのだが、志貴にとっては違ったらしい。
「やってたよ……」 「ん?」 「宿題なら、終わってたんだよ。補習のプリントも全部」
ダウナー全開なオーラを放って、志貴はぐったりと有彦の方を向く。
「終わったって……んじゃ今お前の前に山積みされてる宿題は何なんだ?」 「色々あってな、簡単に言うと部屋と一緒に全て吹っ飛んだんだよ」 「はあ?」 「第三話参照。見ればわかるよ」
良くわからない事を呟く志貴は、ただぼーっと籠の中の鳥如く虚ろな目で空を見上げるばかり。 ようは疲れているんだろう、有彦は簡潔にそう結論付けた。
「誰が原因とは言わないけどさ―――」
志貴がぼやいた瞬間、ビシっと鞭が走った。
「うおっ!」
思わず引く有彦。紫髪の外人が志貴を睨んで、志貴は痛さに声も出せずに蹲っていた。 止めた方がいいのか? そう逡巡して、目の前の光景を再び見ると、
「志貴、その件は誠に申し訳なかったと何回も言っているではありませんか。だから誠意としてこうやってあなたの勉学に付き合っているというのに」 「だ、だったら何もこんな厳しくする事ないだろ!? 一問に何十分かけてるんだよ、こんなの答え見れば一瞬で終わるのに!」 「その考えは認められません。だいたい先日の新聞にも取り上げていたではありませんか、“日本の高校生の学力 今年も低下”。日本に住む者として、しかも現役高校生の志貴には決して無関係の問題ではありません!」 「いや、全然関係ないんですけど……」
志貴もほぼ強制でやらされているが、虐待というわけではないらしい。 楽しいかどうかは別として、まあ、似合ってるとは言えなくもない光景だった。
「……スパルタの中にも愛情、か」
志貴の言葉に対して、ときどき見せるシオンの紅潮。そんなところも中々ポイント高しと言える。
「さて、ここにいても邪魔だろうし……」
来たのはいいが、肝心の宿題が終わってないのでは写せない。 それにあの外人姉さんがいるところではそういう行為が許される事はないと思える。
「あ、私コーヒー入れてくるよ。その、い、乾君もいるでしょ?」
弓塚が思い立ったように立ち上がる。 それを合図に有彦、ちらりと志貴の方を確認して、
「なあ、シオン、宿題って殺せると思う?」 「馬鹿なことを言っていないで、早く手を動かしてください」
……自分はいらないなと確定。 ならばここにいつまでも立っている必要もないだろうと、弓塚に行動を合わせる。
「おい弓塚、俺も行くぞ。コーヒー四つは一人じゃ持てないだろ?」 「え、……ええ!?」 「……そんなに驚くなよ」
ほらさっさと行くぞ、そう言いながら押し出すように部屋を出る。 弓塚は多少混乱しながらも、行先はすでに決まっているので廊下を渡ってリビング、そのまま台所へと歩を進めた。
「い、乾君さあ……」
コーヒーを入れる。入れながら、弓塚は有彦の方を、若干怯えるようなそぶりで見る。
「……驚かないの?」 「何がだよ?」 「その、私がここにいること」
上目遣いで尋ねる。
その問いに有彦は腕を組み、首をひねる。 そして考えた末、簡潔に言った。
「すまん、正直、弓塚の存在忘れてた」 「ガ―――ン」
突きつけられた現実に崩れる弓塚。 まだ半年も経ってないのに……、そんな想いが目から零れる。
「まあ、そんな事は置いといてだ」 「ガ―――ン」
どうでもいいと流されてまたも弓塚はショックを受ける。
「お前、何で遠野のところにいるんだ? あいつが宿題やってないのよりもこっちの方が驚いたぞ、一応」 「ん、……えっと」
そう言えば何で今、自分はここにいるのか。改めて聞かれて、忘れていたことを思い出す。 思わず、笑みが零れた。
「えへへ〜、私ね、ここの使用人になったんだ。ありていに言うとメイドさん」 「メイド?」 「うん、色々成り行きがあって、さっき志貴君の勉強を見ていた―――シオンって言うんだけど、そのシオンもメイドさんなんだ」 「なっ!!」
心震える衝撃に、三歩後ろによろめく。ひ―ふーみーよー、頭の中で暗算開始。 尋ねる声は、世にも信じられないといったそんな声で、
「……ってことはこの屋敷にはメイド四人と秋葉ちゃんで、男女比率が1:5ってわけか?」 「う〜ん、志貴君の義妹で都古ちゃんって子がいてね、今は訳ありで実家に強制送還中なんだけど、またしばらくしたらここに戻ってくるらしいから……」 「1:6、だと(!!)」
内心であり得ないほどのインパクト。
「……ははっ」
乾いたように有彦は笑う。笑いながらゆらりとゾンビのような振る舞いで一言。
「もうあいつとは友達じゃねえ!!」 「ええぇ!?」
大声で宣言。純心素直な弓塚は素で慌てた。
「おかしすぎるっての、何であの朴念仁にこんなっ!」 「ちょ、落ち着いて、乾君」 「俺のところなんて馬一頭だぞ!?」 「わけわかんないよ!」
ああ、狂ってるぜ。世界を祈って呪う有彦。 志貴のところはメイド四人で、自分のところが人参暴食の不良精霊(馬型)なのだから、こんな差を見せつけられては本気で狂いそうだった。
「う〜ん、何だか知らないけど……」
弓塚は頭抱えてしゃがみこんでる有彦を一瞥。
ちょっと変わった?
そう言おうとして、でも言えなかった。
「有彦、行くぞ!」
ばっと脱兎の如く台所に飛び込んできたのは志貴。さっきまで宿題に専念していた筈なのだが。 休憩時間? と弓塚は首を傾げる。
「あん?」
対して呼ばれた有彦はやる気なし。 それはそうだろう、何と言っても志貴は目下「目の敵」なのだから。
「俺は、お前とは行かん! 一緒に遊ぶのは馬でもお前でもなく可愛いギャルだ!」 「バカ、こんな時くらい合わせろ。それよりぐずぐずしてると、」
言わなくてもわかるだろ!? 志貴は有彦に視線で促す。
「し、志貴君、宿題は?」
もはや逃亡的な雰囲気の中、弓塚はあんま事が大げさにならないよう、まずは本人に確認を取る。 志貴は弓塚に振り向き言った。
「弓塚さん、俺、頑張ったよ」
その頬には、傷跡残らないよう上手に赤く腫れ上がっただけの無残な鞭の痕、痕、痕。
「え、うん……」 「この手の甲とか見てよ。肌が擦り減るほどやられた、というか頑張った」 「え〜と、ご愁傷様……」
志貴の悲痛な面持ちに、同じ学生であった弓塚も同情が心底込み上げる。
「だから、さ。もしシオンがこっちに来たら、俺は地下室(帝国)に潜り込んだって言っといて。大丈夫、弓塚さんならきっと出来るから」 「ちょ、ちょっと待ってよ志貴君!?」
言い終わるや否や、志貴は走り出した。弓塚に押し付けるだけ押し付けて、逃げといた。 確かにシオンの気持ちはわかる。 勉強だって理論を立ててわかりやすく、スパルタ式で甘やかさず、もうこのままでは東大だって行けそうで怖いくらいだ。
という訳で、逃げる。 遠野志貴は今を生きる。だから取りあえず、補習のプリントを終わらした今、夏休みの宿題は後々の再提出で構わないのだ。
そんな感じに志貴は己を少しだけ正当化しながら、
「―――あれ?」 「おい遠野?」 「志貴君!?」
二人の目の前で、意識を暗転さしていった。
◇
「―――はい、三十八度九分……って立派な高熱ですね」
琥珀の体温時計を読み上げる声が、部屋に響く。 ここ最近の疲れは見事志貴に蓄積し、こうして結果となって訪れた。
志貴はベッドに横たわったまま、半ば逃亡中とはいえタイミングの悪さに自分を呪う。
皆に心配をかけてしまった……なんて考えは上がらない。 志貴の自室には琥珀他、秋葉、シオン、弓塚、ついでに有彦と集まっているが、心配の眼差しを向けているのは弓塚だけ。他は自業自得と言いたげな目つきと溜息である。
「まあ、ここ数日は慌ただしかったですし、最低二日間はゆっくり休養を取ってくださいな」 「風邪をこじらせたのらな仕方ありませんが……これではスケジュールを三倍濃縮にしなくては」 「……」
琥珀の言葉に反応してシオンの呟き。志貴、もう三日後が恐ろしくて声も出ない。
「宿題写せねえわ熱を出すわ、お前ってほんとつれない奴だな」
やれやれと言った風に肩をすくめて見せる有彦。
「……悪かったよ。とにかく俺はこんなだからもう帰っとけ」 「言われなくてもそうするっての、んじゃ新学期までには治しとけよ」
適当に片手を挙げて志貴に挨拶、その後秋葉と一言二言喋ってから部屋を後にした。 暑い中ご苦労さまでした、と秋葉の言葉を最後に扉が閉まる。
「……全く、どうかしてる」
不甲斐無い身体に文句をつけて、今度こそゆっくりとその身を沈める。 と、意識が落ちる前に一つ、気がかりなことを尋ねる。
向かう問いは弓塚の方。
「弓塚さん、そう言えば有彦とは何ともなかったの?」 「え、何が?」 「えっと、俺はシオンの勉強に(抵抗するのが)夢中で気付かなかったんだけど、弓塚さんって世間じゃ行方不明で姿をくらましている最中でしょ」
―――だからもし、有彦が弓塚さんを見つけたら、 そこまで言って志貴はしばらく考えた素振りを見せた後、
「あいつ、確か幽霊とかそういうオカルトの類は苦手だし、それで何か問題があったんじゃないのかなあって」 「やっぱり志貴君もそう思うよね? 私も怖がられると思って最初とか一応隠れてたんだけど……」
目が合ったのにスルーされる。無視かと思えば声を掛けられる。
オカルト嫌いでなくとも、存在しないはずの人間がいれば普通は驚く筈なのだが。
「……私、迫力ないのかなぁ」
悩んだ末、何だか人を怖がらすことのできない三流妖怪みたいなことを言いだす弓塚。
「多分、違うと思うけど……色々あったんだろ、有彦にも」 「あったのかなあ」 「成長したんじゃないか?」 「う〜ん、そうなのかも……」 「そうなんです、成長ですよ、志貴さん!!」 「おわっ!」
しみじみと納得しかけてるところで琥珀が二人の間に身を乗り出す。 さっきから静かだと思ったら、片手に抱えた小瓶、そして少し紅潮した頬と息。どうやら自分の部屋まで走って行って、そのままスピード落とさず帰ってきたらしい。
「和服ってどうなんだろうね、構造的に結構走りにくそうだけどさ」 「そ―――んな事はどうでもいいのです、それよりこれですよ、これ!」 「何、その捨てる以外に用途の無さそうな液体は?」 「いえいえ、志貴さんに飲ませるという使い方もありますよ」
ガチャ、志貴は両手で口を完全ガード。頑なな意思を表示する。
「ほれはへったいにほみはへんよ(俺は絶対に飲みませんよ)」 「お薬ですよ、志貴さんを想って作ったんですよ!? 何でそんなに拒むんですか!?」
ちょっと心に傷が染みた琥珀。しかし、このくらいで引く筈もなく、
「たまには信用して下さい、ここで志貴さんをパパッと治せば私の株もそれなりに回復するんですから」 「ひやへふよ、ほもほもほんなふふんなほうひで!(嫌ですよ、そもそもそんな不純な動機で!)」 「む〜、これ以上抵抗するなら、こうしちゃいます!」
ぐびっと、琥珀は瓶を自ら煽って飲み干した。その行動に目を丸くする志貴。 そして志貴の方を再度向き直って―――志貴は気付く。
―――違う、飲み干したんじゃない。
琥珀の両手が志貴の両手を掴み、邪魔とばかりに横へ外す。
―――口の中に含んだだけだ!
口移しですよ〜、満開の笑みを映した琥珀の顔が近付いてくる。
「……っく!」
もはやこの間合い、避けられない。覚悟を決めて目を瞑った。
しかし少し考えずとも、琥珀以外の女性もここにいるわけで、
「―――琥珀っ!!」
特に秋葉がいたことは、志貴にとって救いだった。
志貴が遅いなーと思って目を開けた時には、状況はすでに変っていた。
志貴まであと一歩の琥珀は直前で秋葉に髪を思いっきり掴まれ、現在進行形で“放してください〜”と言いたげに瞳を潤ませながら痛がっている。 それでも口の中の自称薬なる液体を吐き出さないのは何のためか、そんな姿でじたばたする琥珀に少し萌えた。
「シオン、弓塚さん、琥珀を地下へ連れてって頂戴」
紅い髪をなびかせながら、秋葉は当主らしく二人に命令。二人も助さん角さんと見違えるほどキビキビした動きで琥珀を連行していった。
「……こういうところは、二人ともしっかり訓練されてるんだなあ」
いつの間に、と思わなくもない志貴だった。 琥珀の「あ〜れ〜」みたいな声があれば色々と完璧だったかもしれない。口に水いっぱいではしょうがないが。
「ふぅ、まったく」
心底疲れましたといった具合に置かれてあった椅子に腰かける。場所はもちろんベッドの真横。
「琥珀も今日ぐらいは静かにさせておきますから、兄さんも早く良くなるよう、ゆっくり休んで下さいね」 「あー、サンキュー秋葉。でも飯とかどうするんだ? たまには出前とかでも俺は構わないけど」 「駄目です。兄さんは身体を壊しているのですから、きちんと、私がお粥を作って差し上げます。まあ、私たちは出前ですけど」 「お粥?」
秋葉の口から、庶民じみた食べ物が、しかも作るという言葉に信じられないと反応する志貴。
「そうです。私だってお粥くらいは作れますよ?」
もちろん機を見計らっての特訓もあったが、ここでは邪推という事で割愛しておく。
「それだけとは言わず、兄さんの看病も今晩くらいは私がしますわ」
薄い胸を張って答える秋葉。対して志貴には疑問が多々浮かぶ。
「いや、でもそういうのって使用人にやらせるんじゃ……」
ましてこの屋敷には四人もいるのだ。屋敷も数日前の爆発とかで三分の二以下になった今、このような仕事を使用人から取っては、ほんとにやることが無くなり、人件費も安くはないし―――解雇―――その二文字が出てきてしまう。
志貴の正論に、秋葉は俯く。
いつもならここから無理に通しはしないだろう。志貴だって疲れているのだ。
しかし、たまにはアピールしたい。翡翠の志貴に対する嫉妬を惜しげもなく見せつけられてから数日、考える時は多かった。
「……たまには、自分で動こうって」
だから、少し素直に。
「秋葉?」 「と、当主たるもの、時には前線に出て身体を張るものなのです。お金だけ払ってるだけではいけないんですよ!」 「ぜ、前線って秋葉……」 「とにかく、とにかくそういうことですから、兄さんは黙って寝てて下さい」 「ぶっ!」
俯きどもりながら、顔を隠して秋葉は怒った風に言う。相変わらずこちらの気持ちを察知しない志貴には髪でビンタで眠らせる。
「お、落ち着けって。しょうがない、わかったよ」 「本当ですか!?」 「そんなに驚くことでもないだろ。それに最近、秋葉とはあまり話してなかったしね、風邪をひいたのもいい機会だと思えるよ」 「兄さん……」
ちょびっと感涙。まさか兄の口からそんな言葉が出るなんて、と。
「よしっ」
これは気合いを入れて看病しなきゃ。秋葉は自分に喝を入れる。 兄さんは弱っているし、確かに言うとおりいい機会、チャンスなのかもしれない。
兄さんは風邪、その事を確認するように、深く頭に刷り込む。
「秋葉、早く兄さんの風邪が治るよう、これ持ってきました!」 「……何、それ?」
秋葉の突き出したものに意味がわからない志貴。 見てわかりませんか? 志貴の反応にキョトンとした表情を浮かべる秋葉。
「―――これは、ネギです」 「…………やっぱり琥珀さんを呼んでくれ」
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